九州の味とともに 夏

この料理の"味のキーワード"

素材

魚介類、野菜など、どんなものでも素材となる。卓袱料理は祝いの席で食べられることも多いためか、エビはよく使われているようだ

衣

一般的な天ぷらの衣の材料である小麦粉、卵、水に砂糖、塩、醤油などの調味料が加えられ味付けされる。しっかりと混ぜることも特徴

揚げ方

衣に砂糖が入っているため、表面が焦げないように一般の天ぷらよりもやや低い温度で揚げられる

語り 天ぷら・割烹 のだ 野田武一の「長崎天ぷら」

野田武一さん

「エビは特製の塩をつけて食べていただくと美味しいですよ。野菜は塩でも天つゆでもお好みでどうぞ」。
衣液が入った木の器に素材をくぐらせながら、銅鍋で天ぷらを揚げるのは店主・野田武一さん。『天ぷら・割烹 のだ』は、第一峰門と本殿が国宝である崇福寺にほど近い崇福寺通りにある。
カラリと揚がった天ぷらは、どれも美味。特製の塩は、塩とタレを煮詰めて乾燥させたもの、天つゆも天ぷらをつけた時にちょうどよくなる味わいとなる濃さが絶妙なバランスだ。しかし、この特製の塩も天つゆもつけずにそのまま食べるのが『長崎天ぷら』だ。

「お客様が『長崎天ぷら』を注文されたら、私は『ざっこエビ』を揚げます。魚でも野菜でもいろいろなものでできますが、これが一番美味しいんですよ」。 ざっこエビとは、クルマエビ科で正式な名前はアカエビという小エビのこと。
「一匹ずつ皮をむき、背ワタを抜いて、むき身をかき揚げにします。生きている小エビの下ごしらえはなかなか面倒です(笑)。このエビは春から秋にかけてのもので、素材が獲れなくなるとお出しできなくなりますね」。

ざっこエビに小麦粉をまぶし、卵液をかけてよく混ぜる

下ごしらえされたざっこエビがボールに入れられ、小麦粉がふりかけられる。さらに、卵と水を合わせたものを入れて箸でしっかりと混ぜる。

通常の天ぷらは小麦粉、水、卵をさっくりと混ぜ合わせた衣を素材につけて揚げる

「通常の天ぷらはさっくりと混ぜないといけないのですが、『長崎天ぷら』は混ぜ方が違いますね。卵と水の割合も、通常の天ぷらよりも卵の割合が多いですね」。

砂糖、塩、薄口醤油を入れて味付けする

そして、砂糖、塩少々、薄口醤油が加えられる。
「通常の天ぷらの衣は卵と水のみですが、『長崎天ぷら』の特徴は衣に味付けをすることです。砂糖を入れるのに驚かれる方もいらっしゃいます。卓袱料理などもそうですが、長崎には砂糖文化がありますから。江戸時代、天ぷらは全国に広まりましたが、どこにでも砂糖があるわけではなかったから、『長崎天ぷら』としては広まらなかったのでしょうね」。
そうお話をされながら、ボールの中で混ぜられた衣液の味を味見されていた。

おたまで形を整えて油に投入

銅製の鍋にはられている油は、太白胡麻油と綿実油をブレンドしたもの。『長崎天ぷら』は170度くらいで揚げられる。
「通常の天ぷらを揚げる油の温度は180度くらいですが、砂糖が入っているので焦げやすくなりますから、少し低い温度で揚げなければなりません。ただ、温度が低すぎると、油を吸ってベチャッとなってしまいます。

色と音で揚がり具合を見極める

通常の天ぷらも『長崎天ぷら』も、揚げる適温がありますからね。それから、通常の天ぷらと『長崎天ぷら』は、うちは別々の鍋で揚げています。砂糖が入ったものを揚げると油が傷みやすいんです。油の強さというかコシみたいなものがすぐになくなってしまい、美味しく揚がらなくなるんですよ」。

普通の天ぷらよりも濃い色に揚がる

油の中に入れられたざっこエビは、通常の天ぷらより濃い色で揚がる。衣は厚めで、形もぷっくりとしている。
「フリッターみたいですよね。そのままお召し上がりください」。
口の中に甘味とともに、塩味とエビの旨味も広がる。
「甘ったるくはないでしょう?砂糖のほどよい甘味が素材の味を引き立てますし、砂糖を入れるとやわらかな味にもなります。料理は、甘さがあるほうが美味しいんですよ。けれど、甘さの加減がむずかしいところです。『長崎天ぷら』を知らない方に説明する時は、『衣に砂糖と醤油が入っています』とお話しするんですが、“甘ったるいもの”とイメージされるようですね。実際に食べていただくと、『美味しい!!』と言っていただけるのですが(笑)。食べてみないとわからないですよね」。
衣の味付け、練り方、油の温度…『長崎天ぷら』も、絶妙で細やかな技があればこそ生まれる一品なのだ。
「手抜きしたら、絶対に美味しいものはできませんからね」。

絶妙な味わいを持つ野田さんの『長崎天ぷら』。そのベースはどこにあるのだろうか?
「母親が作ってくれていた味ですね。子どもの時から普通に食べていたものですし、冷めても美味しいので、弁当のおかずでもありました。子どもが好きな味ですし、昔から長崎に脈々と伝わっているものだと思います。昔は今よりも、もう少し甘かったかもしれませんね」。

この料理人こだわりの「味のキーワード」

素材

長崎で獲れる『ざっこエビ』という小エビを使う。エビが獲れる春から秋の間だけしか食べることのできない限定メニューとなる

衣

小麦粉、卵、水というベースに、薄口醤油、砂糖、塩を加えて味付けする。甘くなりすぎないようにする加減がポイント

揚げ方

油は太白胡麻油と綿実油をブレンドしたもの。温度が高すぎると焦げるし、低いとカラリと揚がらないので、約170度で揚げる

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天ぷら・割烹 のだ崇福寺通りに建つ天ぷらの名店

第一峰門と本殿が国宝に指定されている崇福寺に近い天ぷら店。活き魚介類や旬の野菜など、素材の中心は長崎産のもの。特製天つゆか、塩と自家製タレを炊いた後に乾燥させた特製塩でいただく。こちらの『長崎天ぷら』は、ざっこエビを使ったかき揚げ風。衣に砂糖、塩、薄口醤油を加えて味付けしており、ツユなど使わずそのままいただく。衣の上品な甘味がエビの甘味を引き立てる。

フリッターのような『ざっこエビの長崎天ぷら』時価。通常1コ800円〜
写真は天ぷらのイメージ写真。通常は一品ずつ揚げたてが提供される。昼間の天ぷら定食2,700円。夜のおまかせコースは、8,640円。天ぷらコース5,400円
天ぷらが揚がるパチパチという音がBGM代わりに流れる店内。それは、美味しさを予感させる音だ

天ぷら・割烹 のだ

住所 長崎県長崎市鍛冶屋町6-24 鍛冶ビル1階
電話 095-828-7787
営業 12:00〜14:00/17:30〜22:00
休み 日曜
26席
カード
駐車場 なし
※記載した内容は2015年5月20日現在のものです。
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