九州の味とともに 春

この料理の"味のキーワード"

刺身のさばき方

『城下かれい』をしめた後、三枚におろして刺身を引く。基本は薄造りだが、伝統的な二段おろしにしている店もある

刺身のタレ

タレは醤油、酒、ミリン、ショウガ、ゴマ他を合わせて作る。薬味はネギやワサビが添えられることが多いが、作り手や場所で異なる

自慢の一品

『城下かれい』の旨味を一番に味わえる刺身の他、刺身とは違う『城下かれい』の美味しさを伝えるため、各店が工夫した料理もある

語り 日出町 的山荘 玉田香の「城下かれい」

玉田香さん

『日出町 的山荘』は、暘谷城(日出城)三の丸跡の高台にたつ料亭。元々は、馬上金山(現在は杵築市山香町)で富を築いた成清博愛(なりきよひろえ)が、大正4年(1915年)に建てた別荘だ。別府湾を一望できる広大な敷地に立つ近代和風の豪華な日本家屋は、近代和風建築を代表する貴重なもの。別府湾や高崎山を借景としている日本庭園も素晴らしいし、一枚板を加工した欄間や、七宝焼きで作られた襖の引き手など細部にまで手がこんでいる。2014年に国の重要文化財に指定された建物は、2015年に築100年を迎える。

毎年春から夏にかけて、趣ある空間の中で『城下かれい』を食べることができる。支配人・玉田香さんにお話をうかがった。
「『城下かれい』をメニューでお出ししているのは4月から7月末までです。最近では冷凍技術も発達していますが、『城下かれい』は無理ですね(笑)。この時期になると、東京から日帰りされる方もいますし、全国からお客様がおみえになります」。

多くの人々を引きつける『城下かれい』の魅力はどこにあるのだろうか?
「淡白ではありますが、身の甘味と弾力がある食感は『城下かれい』ならではのものです。身に透明感があり、薄造りにすると見た目はフグに似ていますが、フグとはまったく違うものですね。『城下かれい』は魚の種類としてはマコガレイですが、海底からわき出す清らかな水に育まれているため、他のカレイとは違うのです。それから、鮮度がいいことも日出町で食べていただく『城下かれい』が美味しい理由です。近郊で獲れた『城下かれい』を使いますから、必ず予約をお願いしています」。

厨房に案内していただき、『城下かれい』の薄造りを作るところを見せていただいた。腕をふるうのは、料理長・平野勝美さんだ。生簀から取り出した『城下かれい』はまな板の上でぴちぴちと跳ねている。
「これからさばくのは400〜600gぐらいで、普通のサイズですね。5〜6月は脂ものってきますし、丸みを帯びてきます。やっぱり肥えたやつが美味しいですね(笑)。ウロコを取り、頭と内臓をおとし、三枚におろし、半身をさらに半分に切って4つのサクを作ります。

ウロコを取り、頭と内臓を取り除いた『城下かれい』を三枚におろす
三枚におろした半身を2等分し、皮をはぐ

『城下かれい』の骨はやわらかいので、おろす時に出刃包丁を使うと、骨まで切ってしまうことがあるので、先が丸くなっている包丁を使うんですよ。

美しいサクから刺身が引かれていく

その後、皮をはいで薄造りにしていきます。身はぷりぷりとして甘いですから、刺身が一番ですね。日出町では『城下かれい』の刺身を食べられますが、その他の場所でかれいの刺身を食べられる場所はあまり聞いたことがないですね」。

背中の皮と腹の皮は湯引きしてまるめ、刺身に添える

薄く切られた身は皿の上にきれいに並べられていく。皿の中央には薬味とともに、肝とゆでた皮も添えられる。
「骨せんべいも作りますし、捨てるところがないんですよ(笑)」。

できあがった『城下かれい』の薄造りをいただきながら、再び玉田さんにお話をうかがった。
「『城下かれい』の薄造りには、自家製のポン酢と、土佐醤油をお付けしています。身の甘味をより感じていただくにはポン酢がまずおすすめです。薬味のもみじおろしを少し入れてカボスを絞ると最高です。もちろん土佐醤油とわさびでも美味しいですし、添えている肝をポン酢に溶いて食べるのもいいですよ。薬味の金山寺もろみ味噌を身で巻いて食べても美味ですよ。いろいろ食べ比べていただきたいですね。コースによっては身を厚くした『城下かれい』の刺身を付けていますが、こちらは土佐醤油がおすすめです」。

それぞれの食べ方で感じる身の甘さの違いは繊細でぜいたくな味わいだ。大広間の上にある書には、こんな文字が書かれている(箸袋にも書かれている)。
「大味必淡」(たいみひったん)
漢書の中にある一節で、“美味しいものは必ず淡白な味わいである”という意味で、まさに『城下かれい』にあてはまる言葉だ。

薄造り以外にも、『城下かれい』を使った様々な料理があるとのこと。
「コース料理の『城下かれい会席』(10,800円〜。4〜7月の提供。前日までに要予約。値段、詳しい内容等は問合せのこと)では、しゃぶしゃぶ、茶碗蒸し、揚げ物、茶漬け、煮物などで『城下かれい』を堪能することができます。刺身が美味しい魚は何にしても美味しいはずですね(笑)」。

料理とともに自然に囲まれた風景や歴史ある落ち着いた空間も唯一無二である『日出町 的山荘』。春から初夏にかけて、敷地内は鮮やかな新緑で包まれる。
「『城下かれい』がもっとも美味しくなる5〜6月は緑もきれいでいい季節です。『城下かれい』の時期の後、夏から秋にかけては関アジ・関サバや地元のハモ、秋から早春にかけてはフグと、1年中最高の食材を使った料理でお待ちしています。海を見ながら、建物が醸し出す落ち着いた雰囲気の中、ゆっくり過ごしていただけるとうれしいですね」。
他にはない特別な時間を過ごせる場所だ。

この料理人こだわりの「味のキーワード」

刺身のさばき方

三枚におろし、半身をさらに半分に切って皮をはぎ、4つのサクを作り薄く刺身を引く。菊の花のように美しく盛り付ける

刺身のタレ

特製のポン酢と土佐醤油。薬味で付くワサビ、カボス、『城下かれい』の肝、金山寺もろみ味噌などを合わせても旨い

自慢の一品

しゃぶしゃぶ、茶碗蒸し、揚げ物、煮物、茶漬けなど『城下かれい』を使った様々な料理が作られている。『城下かれい会席』10,800円〜などで食べることができる(要予約。4〜7月の提供。前日までに要予約。値段、詳しい内容等は問合せのこと)

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日出町 的山荘 歴史的建造物の中で、豊後の旬を

暘谷城(日出城)三の丸跡の高台にある料亭。元は、馬上金山で富を築いた成清博愛が大正4年(1915年)に建てた別荘で、細かなところまで贅が尽くされており、高崎山や別府湾を望む景色も抜群。ゆったりとした雰囲気と料理をともに味わえる。料理は、『城下かれい』をはじめとする豊後水道の海の幸や豊後牛など、地産地消を目指した和風御膳だ。

『城下かれい会席』10,800円〜(4〜7月の提供。前日までに要予約。値段、詳しい内容等は問合せのこと)に付く『城下かれい』の薄造り。14,040円〜には厚めに切られた『城下かれい』の刺身も付く
『城下かれい会席』10,800円〜(4〜7月の提供。前日までに要予約。値段、詳しい内容等は問合せのこと)。豊後牛のしゃぶしゃぶなども付く
『ステーキ会席』3,240円。豊後牛をステーキでいただく
『黒毛和牛網焼き重』3,240円
(1日限定20食、前日までの予約)
室内の調度品や、照明などにも見所が多い
長いアプローチの後に、落ち着いた家屋が現われる
長いアプローチの後に、落ち着いた家屋が現われる

日出町 的山荘(ひじまちてきざんそう)

住所 大分県速見郡日出町2663番
電話 0977-72-2321
営業 11:30〜14:00/17:30〜21:00
※ランチは当日来店も可。その他は完全予約制
定休日 なし
80席
カード
駐車場 あり
URL http://www.tekizanso.com/
※記載した内容は2015年4月28日現在のものです。
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