九州の味とともに 春

この料理の"味のキーワード"

下ごしらえ

生きた『とびんにゃ』や砂抜き済みの『とびんにゃ』を購入することもできるが、店主自ら獲り、時間をかけて砂抜きする店も多い

ゆで方

塩ゆでが基本だが、海水でゆでることが多い。ゆですぎると身がかたくなるため、ゆで加減が重要だ

『とびんにゃ』を使った料理

奄美大島では味噌汁に入れたり、味噌漬けにすることも多い。工夫を凝らした料理を提供している店もある

語り 居酒屋 若大将 大郷達範の「とびんにゃ」

店主・大郷達範さん

店内に一歩入ると店主・大郷達範さんの「いらっしゃいませ〜」の太くて元気な声。
「田中邦衛に憧れていて、店名を『青大将』(加山雄三さんと共演していた映画『若大将』シリーズ中での田中邦衛さんの愛称)にしたかったんだけど、みんなに反対されて『若大将』になりました(笑)。家族みんなと一緒に元気いっぱいに営業してます!」。

大郷さんの気さくな人柄と、アットホームな雰囲気に包まれた店内。1983年のオープン以来、島内外のお客さんでにぎわっている。奄美の地魚、郷土料理を食べられる他、串焼きや一品料理もそろう。

メニューの中にある『島料理』の欄の一番上に書かれているのが『とびんにゃ』だ。
「島の方はみんな好きですね。観光客など知らない方に尋ねられたら…『シンプルだけど、美味しいですよ』と答えています(笑)。『にゃ』は島の言葉で“貝”のこと。海の中で飛ぶように動くことから『とびんにゃ』と呼ばれているんです」。

島で昔から親しまれている料理法は海水で煮るだけの塩ゆでだが、大郷さんは一工夫している。
「砂抜きした『とびんにゃ』をまず生きたまま海水でゆでます」。

湯が熱くなると、『とびんにゃ』のツメと身が外に飛び出したりする。この鍋には約3kgの『とびんにゃ』が入っていた

「ガサガサと動きだしてちょっとかわいそうですね〜。沸騰したら、水で洗い、昆布出汁、塩、薄口醤油を加えて少し煮込んで味をつけるんです」。

ゆであがった『とびんにゃ』を水で洗い、昆布出汁、塩、薄口醤油を加えて少し煮込み味をつける

奄美ではツメ(正式にはフタ)と呼ばれる部分をつまみ、ねじるようにすると身とワタを外に出すことができる。

ねじるようにして身とワタを取り出す

「海水でゆでるとツメと身が外に出てくるのですが、水でゆでると中に入り込んでしまい、とても取り出しにくくなりますね。身が縮こまってしまうのかな(笑)。つまようじを添えていますが、手でも簡単にとれますよ」。

口に入れるとプリプリとした食感と濃厚な旨味が広がり、食べては身を取り出すの繰り返しが止まらない
「塩ゆでした『とびんにゃ』は焼酎のつまみに最高ですね。本当に止まらなくなります(笑)。『とびんにゃ』を生では食べませんが、酒蒸しや味噌漬けにしても美味しいですね。茶碗蒸しに入れてもいいし、殻から出汁が出るので味噌汁も美味しいですよ」。

『とびんにゃの味噌汁』はお願いすればつくっていただける。アサリの味噌汁とはひと味違う旨味の深い味わいだ。

小さい頃から『とびんにゃ』を食べていたという大郷さん。その頃から『とびんにゃ』を獲りにも行かれていたのだそうだ。
「4歳くらいから食べていましたね。両親が獲ってきたり、親戚の人がくれたり。海に行けば砂浜ですぐ見つけられたし、好きでしたね。自分も獲りに行って、ポケットに入れて持って帰ってましたよ(笑)。天気のいい時にはよく獲れますが、天気が悪い時には獲れません。砂地から殻の表面がちょっと出ているんですが、1個見つけると必ずツガイでいて、さらにそのまわりにごっそりいるんですよ。夫婦と家族なのかな?(笑)。だから、1個見つけたら、あっという間に数キロは獲れるんです。手で獲るのですが、獲る時にツメで刺してくることがあるんですよ。高知県ではツメを刀に見立てて『チャンパラ貝』と呼んでいるみたいですね」。

『とびんにゃ』が美味しいのは身が大きくなる冬の終わりから春にかけて。大郷さんや息子さんたちが獲ってきた『とびんにゃ』が料理に使われることもある。
「私は『とびんにゃ』、息子は夜光貝など、親子で違う貝を獲ってきたり、息子が潜って魚介を獲ってきたり…。奄美の新鮮な旬の味を楽しんでいただきたいですね!」。

この料理人こだわりの「味のキーワード」

下ごしらえ

店主・大郷さんや息子さんたちが獲ってきた『とびんにゃ』が料理に使われることもある。ゆでる前にしっかりと砂抜きをする

ゆで方

生きたまま海水でゆで、沸騰したら水で洗う。その後、昆布出汁、塩、薄口醤油を加えて少し煮込み味をつける

『とびんにゃ』を使った料理

お願いすればつくっていただける『とびんにゃの味噌汁』。殻から出汁が出るので、アサリの味噌汁とはひと味違う味わいだ

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居酒屋 若大将家族で営む元気であたたかな居酒屋

店主・大郷達範さんを中心に家族で営むアットホームな居酒屋。大郷さんや息子さんたちが潜って獲ってきた新鮮な魚介が料理に使われることも多い。『とびんにゃ』はゆでるだけでなく一手間かけている。ゆでて水で洗い、昆布出汁、塩、薄口醤油を加えて少し煮込み味をつけるのだ。奄美の郷土料理を食べられる他、串焼きや一品料理もそろう。

『とびんにゃ』650円(税込)
『とびんにゃ味噌汁』700円(税込)
『赤ウルメ(グルクン)の唐揚げ』750円(税込)
奄美の郷土料理『油ソーメン』520円(税込)
県外のお客さんには必ず付け出しとして出される落花生を使った『自家製地豆豆腐』
カウンター席、テーブル席、座敷席があり一人でもグループでも利用しやすい

居酒屋 若大将

住所 鹿児島県奄美市名瀬金久町4-11
電話 0997-53-6167
営業 17:00〜OS23:30
休み 日曜
60席
カード
駐車場 なし
URL http://wakadaisyou.amamin.jp/
※記載した内容は2017年4月20日現在のものです。
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