九州の味とともに 春

この料理の"味のキーワード"

五島うどん

上五島には30軒以上の『五島うどん』製麺所があり、素材や製法が少しずつ異なる。各店がセレクトした『五島うどん』を使っている

炊き方

『五島うどん』を熱湯を張った鉄鍋に入れて炊く。鉄鍋のまま提供され、さらに炊きながら食べるスタイルの店もある

つゆ

アゴ(トビウオ)出汁をベースにしたつゆにつける食べ方と、卵と生醤油を合わせたものをからめる食べ方がよく知られている

語り 王道庵 西濱の町店 松尾博一の「地獄炊き」

松尾博一さん

「美味しい『五島うどん』を多くの人に伝えたい」と、大将・松尾博一さんが長崎市の路面電車の電停『思案橋』のすぐ前に『王道庵』を開いたのは2008年。以来、素材にも作り方にも揺るぎない“王道”を目指している。2012年には西濱の町店もオープンした。

こちらで使っている『五島うどん』は、松尾さんが惚れ込んだもの。「五島には『五島うどん』をつくっている製麺所が30軒以上あるのですが、うちは、国産小麦粉100%を使っているところから取り寄せています。国産小麦粉は強力粉ではなくてグルテンが少ない中力粉。引きが弱いために、強力粉だと1日でできあがるところが3日かかるんですよ。こねてだんご状にして1日寝かせてから伸ばしたり、グルテンが少ないと急速に乾燥させると切れやすいので自然乾燥させたりと、時間と手間がかかっているんです。けれど、細いのにモチモチとしてコシが強く、喉越しもすごくいいんですよ」。

出汁の材料は、ソウダガツオ、サバブシ、イリコ、花ガツオ、昆布、焼きアゴ

出汁も松尾さんが手間ひまをかけて作る。
「出汁の材料は、ソウダガツオ、サバブシ、イリコ、花ガツオ、昆布、焼きアゴです。材料は全部見せますが、分量がわからないと真似はできないでしょ?(笑)。例えば、アゴは入れすぎると香りが立ち過ぎて美味しくなくなるんですよね。毎日3時間ほどかけてベースの出汁を作り、薄口醤油や濃口醤油などを加えて、温うどん用、冷やしうどん用、地獄炊き用と、それぞれのつゆを作るんです。

干しアゴを焦げないように炒める

アゴは干しアゴを仕入れ、炒るようにして焼きます。香ばしさを出すように炒るのですが、焦がすと苦みが出てしまうので注意が必要ですね」。

すべてのうどんのつゆに使われるアゴ出汁

うどんのゆで方についても細かな加減があるようだ。

熱湯にうどんを投入する

「『五島うどん』は1kg入りの袋に入って届きます。背丈くらいの長さに細く伸ばしたうどんを20cmくらいに切ったものなのですが、袋ごとにうどんの太さや形状が微妙に違うんですよ。うどんは棒状の物に端を掛けて上下に伸ばして乾燥させますから、真ん中あたりは少し太くなるし、棒にかかっている部分は、少し平たくなったりしているわけです。僕らは毎日触っているので分かるのですが、うどんをつかんだ時に、今日は少し太めとか少し細めとか感じるんです。そして、太めのものは少しだけ長くゆでるわけです。そうやってこまめにゆで時間を調整することが必要ですね。

基本のゆで時間は5分だが、ゆで具合を確認しながら調節する

うちで使っているうどんのゆで時間は、通常の五島うどんより少し短めで、5分くらいです。これも、国産小麦の中力粉で作ったうどんだからです」。

ゆであがったらザルにあげる

ゆであがったうどんは、水で洗う。

水でよく洗う

「水で洗うのは、うどん同士がくっつかないように使われる椿油を落とすのと、麺作りに使われる余分な塩を落とすためです。また、水でよく洗うことで、よりモチモチ感が出て喉越しがよくなりますね」。

温めなおした後、熱湯をはった鉄鍋の中に入れてできあがり

うどんは再び温めなおし、熱湯をはった鉄鍋の中に入れ、つゆ、卵、ネギ、おろしショウガといった薬味と一緒に提供する。
「つゆの中に卵を溶き、薬味を入れてどうぞ」。

卵と一緒に食べることで、アゴ出汁の効いたつゆの味わいが、よりうどんにからむ。鉄鍋の中のうどんは極熱だが、つゆと卵がからまることで適温となる。
「熱々の鉄鍋の中にあっても、『五島うどん』はのびないですね。元々『地獄炊き』がよく知られている食べ方ですが、冷やしうどんもとても美味しいですよ」。

冷やしうどんでは、『地獄炊き』とは異なるモチモチ感と喉越しを味わえた。

松尾さんが話してくださる『五島うどん』の話もおもしろい。
「うどんは奈良時代ぐらいに、中国から日本に伝わってきたものだと考えられています。その際、中国の船は五島経由だったので、五島に伝わったようなんですよ。その頃、日本には昆布ロードというのがあって、昆布を積んだ船が日本海を北から順に南下して各地に昆布を届けていました。帰りには南で手に入れたものを持って北上して行ったはずです。その時に『五島うどん』も船に載せられて、各地に伝わったのではないかと思います。それで、富山の氷見うどんや秋田の稲庭うどんという、『五島うどん』に似た手延べ乾麺が生まれたのではないでしょうか? 僕の仮説ですけどね(笑)。関東で、『五島うどんは稲庭うどんに似てますね』と言われると、『いやいや、五島がルーツですよ』と言いたくなります(笑)。それとね、『地獄炊き』は、漁師たちが陸で仕事をする時に、寒いから湯を沸かして、そこにうどんを入れて食べたのが始まりではないかと思うんですよ。そこには肴として煮付けた魚もあったでしょうから、その汁にうどんをつけて食べたのではないでしょうか? 今のつゆは上品になってますね(笑)」。

松尾さんは、五島うどんの新しい食べ方も提案されている。
「『五島うどん』は、モチモチ感があるから、カルボナーラやナポリタンにしても美味しいんですよ」。

カルボナーラとナポリタンは、思案橋店にはないが、2012年に開店した姉妹店『王道庵 西濱の町』で食べられる。
「他にも五島うどんを使った担々麺も旨いですよ。フェイスブックの友達限定メニューもあったりしますので、ぜひチェックしてみてください!」。

この料理人こだわりの「味のキーワード」

五島うどん

国産小麦粉100%で、3日間かけてじっくり作られたものを五島から取り寄せている。モチモチとしてコシが強く、喉越しもいい

炊き方

5分ほど炊くが、日々変わるうどんの太さや形状に合わせて調節する。炊きあがったら一度水でよく洗ってから温め直す

つゆ

焼きアゴ、イリコなどから毎日3時間かけてとった出汁をベースにしたつゆに、卵を溶いて食べる。薬味はネギとおろしショウガだ

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王道庵 西濱の町店 国産小麦粉100%の五島うどんを!

五島から取り寄せる国産小麦粉100%の五島うどんは、モチモチ感とすっきりした喉越しが特徴。つゆは、アゴ(トビウオ)や昆布などから手間ひまかけてとった出汁をベースにしたもので、『地獄炊き』は特製つゆに生卵を溶いたものにうどんをつけて食べる。ランチタイムも営業している西濱の町店には、五島うどんを使ったカルボナーラやナポリタンという珍しいメニューも。

『地獄炊き(玉子付き)』700円。薬味はネギとおろしショウガだ
特に喉越しを楽しみたい『冷やし(つけ麺)』550円
卵の黄身を混ぜ、うどんにからめて食べる『五島うどんカルボナーラ』780円。麺のモチモチ感に驚く
思案橋店の1階はカウンター席のみ。2階にはテーブル席もある
2012年にオープンした
『王道庵 西濱の町店』
住所:長崎市銅座町1-2
電話:095-823-6566
営業:11:30〜22:00
休み:日曜  席:20席
カード:不可 駐車場:なし
URL:
https://www.facebook.com/oudouan
テーブル席でゆっくりと楽しめる西浜町店

五島うどん 王道庵 西濱の町店

住所 長崎県長崎市銅座町1-2
電話 095-823-6566
営業 11:30〜22:00
定休日 日曜
20席
カード 不可
駐車場 なし

長崎思案橋

住所 長崎市本石灰町1-11
電話 090-6291-3032
定休日 日曜
16席
カード 不可
駐車場 なし
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