九州の味とともに 春

この料理の"味のキーワード"

ゆで方

白根の部分を先にゆで、葉の部分はさっとゆでる。葉の中は空洞なので、その中にある空気を抜くことも必要

巻き方

白根から数cmのところを折り、白根を軸にして葉の部分をくるくるとまきつける。『ひともじのぐるぐる』という名前の由来だ

作り方

味噌をベースに酢、砂糖、塩、ミリン、カラシなどを合わせて作る。味わいの違いは使う味噌の種類によっても異なるようだ

語り 懐食 田しろ 田代眞悟の「ひともじのぐるぐる」

田代眞悟さん

店主・田代眞悟さんは、還暦を迎えた2002年に料理人生の集大成として、『懐食 田しろ』を開いた。背筋の伸びた立ち姿には凛とした雰囲気が漂っている。
「修行時代から姿勢は厳しく言われていましたから」。

田代さんは熊本県調理師会会長でもあり、後進の指導にもあたられている。

半世紀以上の料理歴を持つ田代さんは、今、“原点”や“基本”を大切に感じていらっしゃるとのこと。
「長くやってきましたが、今の気持ちは原点に帰ってきていると思います。高価な食材も使わせていただいてきましたが、高いものを使うのではなく身近な素材を使った惣菜的な料理に、とても心がひかれています。和食の原点は家庭料理ですからね。そして、惣菜ではありますが、それを今まで培った技術で料理したいと思っているのです。『ひともじのぐるぐる』もまさにそんな一品ですね」。

ひともじを大量にゆでる時はばらばらにならないように束ねる

一見、単純に見える料理の中に、田代さんの細かな仕事がちりばめられているのだ。

白根の部分をゆでた後、葉の部分をゆでる

まず、『ひともじ』の根を切り、先端部分を切り、白根のほうから先にゆでる。葉の部分を軽くゆでたら鍋から取り出し、ざるにあけて軽く塩をふる。
「塩をふるのは、水分をとるためと、ほんの少しだけ塩味をつけるためです。ここで塩をしておくと、できあがった時にちょうどいい具合になるんです。和食では『食い味(くいあじ)をつける』という言い方をしますね」。

ゆであがったひともじはざるにあげ、塩をしてうちわで冷ます

塩をふった『ひともじ』は、うちわであおいで冷ます。
「水に落とすと水っぽくなってしまいますし、『ひともじ』独特の甘味も減ってしまうので、昔ながらのやり方ですが、うちわであおぐのが一番いいんですよ(笑)。ただ、葉の緑色が悪くならないように、急いであおいで冷まさないといけませんね。ゆでたものを熱いままザルなどにあげて冷やすことは、『陸上げ(おかあげ)』と言いますね。それから、この方法だと、冷ましている間の時間が少しかかりますから、素材に9割くらい火が通ったところで湯からあげることが必要ですね」。

白根の上を折って巻いていく

ぐるぐると巻いていく時にはどんな注意が払われているのだろうか?
「食べやすいように巻くことを心がけています。巻いた面に段差ができないように、できるだけ平らに、そして断面が円になるようにです」。

しっかりと巻き、端の部分をきり落としてきれいにする

酢味噌の材料は白味噌、砂糖、酢、カラシ、それに熊本ではよく知られている赤酒(あかざけ)だ。
「赤酒は米を原料とした熊本ならではの甘い酒です。木灰を入れることでアルカリ性となり、料理に使った時に素材を固くしない作用があります。煮物に使っても最高ですよ。うちではミリンは置いていません。代わりにすべて赤酒を使っています」。

酢味噌をかけてできあがり

きれいにまかれた『ひともじのぐるぐる』の上に酢がかけられ、さらに酢味噌がかけられる。ほのかな酸味に出汁の味がきいていて、そのまま飲んでも美味しい酢だ。
「これは『土佐酢』です。酢、カツオブシ、薄口醤油、赤酒を合わせてゆっくりと火を入れて作ります。うちの万能調味料ですね(笑)」。

口に運べばしっかりと巻かれて、歯応えがいいのにふっくらとした味わいも感じる。酢味噌と土佐酢の味は上品だ。『ひともじのぐるぐる』が盛られた小さな皿には、熊本の味と田代さんの経験も盛られている。
「私は19歳から東京で修行していましたので、当時は『ひともじのぐるぐる』が郷土料理だとはまったく思っていませんでした。熊本に帰ってきてから『お金をいただける料理なんだ』と驚きましたね(笑)。酢味噌も美味しいですが、ニンニクの葉をすりおろして味噌と合わせるニンニク味噌で食べても美味しいですよ」。

現在、田代さんは、息子の誠さんと一緒に厨房で料理を作っている。
「私も修行している中で身につけたものですから、口では伝えられない部分がたくさんありますね。ただ、料理は手間ひまかけないといけないものだと思っています。昔の料理人は何もかもすべてが手作りですからね」。

この料理人こだわりの「味のキーワード」

ゆで方

白根のほうから先にゆでた後、ざるに出して塩を軽くふりかけ、うちわであおいで冷ます。水っぽくならないようにするためだ

巻き方

巻いた面にできるだけ段差ができないように巻く。また、断面が円になるように巻く。いずれも、食べやすいようにするため

酢味噌

材料は白味噌、砂糖、酢、カラシ、それに熊本ではよく知られている赤酒(あかざけ)。また、仕上げに土佐酢も少しかける

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懐食 田しろ 料理歴50余年の主人が作る日本料理

ご主人・田代眞悟さんが、半世紀以上にわたる料理歴の集大成として開いた和食処。「熊本ほど素材に恵まれている場所はないですね」と、海の幸、山の幸…熊本の旬を基本に忠実な出汁などを使って料理する。『カウンター小懐石コース』3500円、『懐石水前寺コース』4200円〜などでじっくり味わいたい。『点心弁当コース』や『だご汁御膳』などのランチもある。

『ひともじのぐるぐる』1人前450〜500円(写真は1人前)。
『ひともじのぐるぐる』とランチタイムの『点心弁当コース』1600円の一部。お昼の『だご汁御膳』950円でも上品な出汁の味わいを楽しめる
田代さんの仕事を見られるカウンターは特等席
ゆっくりと食事ができる座敷席

懐食 田しろ

住所 熊本市手取本町3-9 ファンビル2階
電話 096-323-1126
営業 11:00〜14:00/17:00〜OS20:30
30席
休み 日曜
カード
駐車場 なし
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