九州の味とともに 春

この料理の"味のキーワード"

材料

アジ、シイラなど日向灘近海で獲れる魚のすり身と、豆腐が主な材料。ゴボウなどが加えられることもある

味付け

酒、醤油の他に、味噌、黒砂糖で味付けされる。現在は、黒砂糖の代わりに、より精製した、きび砂糖や白砂糖も使われる

揚げ方

形を整えて油で揚げ、表面がきつね色になったらできあがり。木の葉型が基本だが、ちぎり天にしたりすることもある

語り 郷土料理 おび天「蔵」 江良紀世子の「飫肥の天ぷら」

江良紀世子さん

城下町・飫肥(おび)。飫肥城大手門の手前にある『郷土料理 おび天「蔵」』は、歴史ある建物だ。江戸時代、飫肥藩の藩役所が置かれていたところで、明治6年、小村寿太郎の父・小村寛が総代人の『飫肥商社』が設立された場所でもある。明治13年以降は「長倉」として利用されていたとのことだ。柱や梁も風格ある建物で、江戸時代から続く製法で『おび天』が作られている。

1階は売店と食事処、2階は大広間。店の中に入ると、すぐに良い香りが漂ってくる。
「『おび天』には黒砂糖が入っていますから、揚げていると甘い香りになりますね」。

入口のところで『おび天』の実演販売をされているのは、主任・江良紀世子さんだ。
「白身魚のすり身と、豆腐を混ぜたものに、味噌、醤油、黒砂糖を合わせたものを揚げていきます。魚は日向灘近海で獲れる魚です。シイラが多いですが、季節によって他の魚を入れたりもします。トビウオもよく使いますね。豆腐は自家製で、『おび天』のために作っているものです。九州は味噌が甘めですし、日南の醤油も甘め、そこに黒砂糖も入れますから、『おび天』は甘めの味付けになりますね」。

お話をしてくださりながら、次々に『おび天』ができあがっていく。

すり身をヘラで取り、手で成形する

「手の平で、木の葉型に整えて油に入れます。

基本の形である木の葉型になったすり身

きれいな木の葉型になるように、中央に少しくぼみをつけていますね。すり身自体に味がついていて、焦げやすいので、揚げる温度は低めで150〜160度くらいです。

油に入れ、浮き上がってきたら仕上げ用の油槽へ移す

油槽が2つありまして、まず右の油槽へ。3分ほどして浮いてきたら、左の油槽へ移して、こんがりとしたきつね色に仕上げます。

こんがりときつね色になったらできあがり

表面の色が少し濃い色に揚がるのも、黒砂糖を使っているからですね」。

揚げたてを口に運ぶと、甘くてふんわりとしたやさしい味わい。黒砂糖の風味も感じられ、そのまま食べても美味しい。
「城下町に伝わるアツアツの庶民の味ですね。けれど、しっかりと味がついていますから、冷めても美味しいですよ。地元の方は焼酎を飲みながら食べられる方が多いですね。日向灘はお魚がたくさん獲れて、以前は行商の方々が魚をたくさん売りに来られてました。私も、それを材料にした天ぷらや、かまぼこをよく食べていましたよ。甘くて美味しくてね、私たちには、すごいごちそうでしたよ。魚も豆腐も味噌も黒砂糖も入って栄養豊富。重要なタンパク源でもあったのでしょうね」。

白身魚のすり身と豆腐を材料とした、昔から伝わる天ぷらに加えて、こちらでは様々なアレンジが施された天ぷらも食べられる。
「ゆずとうがらし入り、紅生姜入り、しその実入り、エビ入り、ゴボウ入り、ゴボウのちぎり天など、すり身は同じですが、いろいろな味が楽しめますよ。ゆで卵をすり身で包んで揚げたものは、『ヨーロー』とも呼んでいます」。

『おび天』は1枚だけでも買うことができ、食べ歩きもできるが、併設された食事処では、日南の郷土料理を一度に楽しめる定食も用意されている。『おび天』、千切り大根を甘酢で漬けた『まだか漬け』、山太郎カニというカニを使った『かに巻き汁』、天ぷらと並び飫肥の名物であるプリンのような『厚焼き玉子』…。
「甘めの、やわらかな味付けのものが多いですよね。『おび天』をはじめ、みなさんに日南の味を知っていただけるとうれしいですね」。

この料理人こだわりの「味のキーワード」

材料

ベースは白身魚のすり身と自家製豆腐を混ぜたもの。魚は日向灘近海で獲れる魚で、シイラが多いが季節によって他の魚も使う

味付け

調味料は味噌、醤油、黒砂糖など。味噌も甘め、醤油も日南特有の甘めのものを使う。黒砂糖が香りやコクを出すのに欠かせない

揚げ方

手の平で木の葉型に整えて、150〜160度の油で揚げる。2つの油槽を使い、こんがりとしたきつね色になるように仕上げる

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郷土料理 おび天「蔵」 黒砂糖が香る、様々な種類の『おび天』

江戸時代、飫肥藩の藩役所が置かれていたという趣ある建物。入口近くでは、『おび天』の手作り実演販売が行なわれており、いい香りが漂う。白身魚のすり身に自家製豆腐を混ぜて味付けしたものを、両手で一つずつ木の葉型に丸めて揚げているのだ。紅生姜入り、ゆで卵入りなど、こちらならではの『おび天』も多数。奥の食事処では日南の郷土料理を味わえる。

右が基本の『おび天』1枚80円。ゆで卵入り220円、紅生姜入り220円などもある。1コから買え、食べ歩きのおやつにも最適
『おび天定食(松)』1,300円。おび天盛合せ〜おび天とゴボウのちぎり揚げ〜、厚焼き玉子、かまぼこ、きんかんの甘露煮、まだか漬け(切干し大根の甘酢漬け)、むかでのり(海藻で作った、ところ天のようなもののみそ漬け)、ごはん、漬け物、かに巻き汁が付く※季節によって内容が変わることもあります。
写真の1階はテーブル席、2階には大広間もある
売店コーナーでは、持帰り用のおび天10枚入り735円や、おび天真空パック525円などがある

郷土料理 おび天「蔵」

住所 日南市飫肥9-1-8
電話 0987-25-5717
営業 9:00〜17:00
定休日 なし
1階36席、2階に大広間あり
カード
駐車場 あり
URL http://obiten.co.jp/
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