九州の味とともに 春

この料理の"味のキーワード"

高菜漬け

毎年4月頃に漬ける自家製の高菜漬け。『たか菜巻』にそのまま使うと塩分が強いので、水で洗って塩抜きしておく

具材

山芋、納豆、ネギという基本的な『たか菜巻』の具材に加えて、梅肉とワサビを使う。ネギは刻まずにそのまま使われる

巻き方

巻きすの上に高菜漬けをのせ、穴が空いている部分はふさぐ。すし飯を海苔の形に広げ、具材をのせてしっかりと巻く

語り 坂道グループ 武石辰子の「たか菜巻」

武石辰子さん

日田市天瀬町馬原にあり標高300mほどの袋集落。この地で惣菜などを製造する『坂道グループ』の加工所に武石辰子たけいしたつこさんを訪ねた。
「会の名前は、どこから来るにしても坂道を登ってこないといけないことから、みんなで考えてつけたんですよ(笑)」。昭和55年に女性10人で結成され、今もイベントへの出店や料理講習会などを行っている。

たか菜巻の講習会では講師を務める武石さんに『たか菜巻』作りを見せていただいた。
まず、高菜漬けを水で洗う。高菜漬けは自家製だ。
「毎年、4月頃に収穫された高菜を漬け込みます。1年間で使う分をまとめて漬け込むのです。今、洗っている高菜も昨年4月に漬けたものです。塩分濃度を7%くらいにしておくと、1年間大丈夫なんですよ。そのままだと少し塩辛いので、水で洗って塩抜きするんです」。
さらりとお話してくださる武石さんだが、2度漬けするなど、手間と時間をかけた高菜漬けだ。
「収穫された高菜は塩分濃度が5%になるように1度目は塩だけで漬けた後、引き上げて足で踏んで水分を取り除きます。踏み方や力の入れ方というのがあって、体重が重い人がやれば早くできるというものではないんですよ(笑)。その後、2度目は樽ごとに5%〜8%に調整して漬けます。早く食べる分は塩辛くなりすぎないようにあらかじめ塩分を控えているんです。それから、2度目は唐辛子と生の大豆も加えています。大豆が高菜漬け独特の匂いを吸収してくれるみたいですね。普通の高菜漬けを漬ける時は、茎のほうが歯応えもあり美味しいので、葉を捨てることもあります。けれど『たか菜巻』には一枚まるのまま使うので、捨てるところはありません」。

樽から高菜漬けを取り出し、水でよく洗って絞る

ごはんに酢、砂糖などを合わせるすし飯は『たか菜巻』ならではの味付けだ。
「『たか菜巻』に使うすし飯は、薄めであっさりした味付けにしています。高菜漬けに味がついていますし、その味をより味わっていただきたいと思っているんです」。

すし飯は普通の巻き寿司などに使うものよりあっさり目の味付けだ

洗った高菜漬けをよく絞って水分を取り除き、巻きすの上に広げて、すし飯をのせる。
「まず茎の太い部分は切り落とします。そして、葉の裏表があるので確認して、見た目がきれいになるよう、表が外側になるように広げるんです。すじめ(葉脈)がたっているほうが裏ですね。大きい葉だと一枚で巻けますが、小さい葉は重ねたりもします。また、穴が開いている部分は端っこの葉を切って穴をふさぎます。すし飯は巻き寿司用の海苔のように長方形に広げます。でも、初めてやる人は、ついつい葉っぱの形に広げてしまうことも多いですね(笑)。高菜漬けの極端にはみ出した部分は切り落としますが、後で小さく切って油で炒めて食べますよ。すし飯はいつも使う器に入れて量っています。器込みで300g。この器に決めているから、どこかで作る時はこの器を持って行かないといけません(笑)」。愛用の器の重さは60g、『たか菜巻』1本分ですし飯は240gということのようだ。

茎の太い部分は切り落とし、巻きすの上に広げる

すし飯を広げたら、中の具材を置いていく。
「基本は山芋、納豆、ネギですが、私たちの『たか菜巻』は梅干しをすりつぶした梅肉と、わさびも加えています。真ん中に山芋を置いてわさびと梅肉を塗ります。納豆を手前においてネギを梅肉の上にのせます。ネギは刻むという作り方もあるのですが、私たちはたくさん作ることもあるので、刻まずに使っています。このほうが早いし断面もきれいかな?(笑)。ネギの緑と梅肉の赤で彩りもいいですね。具材をのせたら、巻き寿司と同じように巻くのですが、巻くのは巻き寿司よりも難しいですね。しっかり巻いておかないと形がくずれやすくなるんです。一枚一枚高菜漬けの葉の形は違っているのですが、たまに(形は)会心の1本が巻けますよ(笑)。できあがった『たか菜巻』には、高菜漬けの葉の部分が多い1本と、茎の部分が多い1本がありますが、よく見て好きなものを選んでいただくといいですね」。

すし飯をのせ、具材をのせていく
しっかりと巻く

1本を8等分してできあがり。

巻き上がったものを8等分する

口にふくむとまず高菜漬けの香りと食感が広がり、その後に山芋の食感と納豆の香りが広がる。梅肉とわさびの味がアクセントだ。
「このあたりでは各家で高菜を栽培しているところが多いですが、寒いところで育つ高菜は葉がやわらかくなるようですよ。葉が大きいほうが作りやすいので、私たちは三池高菜を使います。」

『たか菜巻』は家々でも作られるが、毎年12月15日に行なわれる『甘酒まつり』など、集落で祭が行われる時には、『たか菜巻』をみなさんで作って食べることもあるそうだ。
「みんな目分量だし手作りなので、ちょっとわさびがきいてる部分とかもありますね(笑)」。袋地区の『たか菜巻』は、地域に根ざした手作りならではの味わいなのだ。

この料理人こだわりの「味のキーワード」

高菜漬け

毎年4月頃に漬ける自家製の高菜漬け。『たか菜巻』にそのまま使うと塩分が強いので、水で洗って塩抜きしておく

具材

山芋、納豆、ネギという基本的な『たか菜巻』の具材に加えて、梅肉とワサビを使う。ネギは刻まずにそのまま使われる

巻き方

巻きすの上に高菜漬けをのせ、穴が空いている部分はふさぐ。すし飯を海苔の形に広げ、具材をのせてしっかりと巻く

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