九州の味とともに 冬

この料理の"味のキーワード"

スケトウダラの卵

スケトウダラの卵の質が明太子の味を決めるため、各社とも仕入れには細心の注意を払う

調味液

調味料に含まれる出汁の材料、唐辛子の品種や加工法、隠し味的な調味料などが明太子の味わいの特徴を決定付ける。各社とも詳細は秘密だ

漬け込み方

美味しい明太子を作るため、漬け込み時間、漬け込み室の温度、途中のもみこみなど、各社独自のやり方で行なわれている

語り ふくや 本町聖一の「博多明太子」

本町聖一(もとまちせいいち)さん

2017年に創業70周年を迎えた『ふくや』。創業者・川原俊夫さんが求めた “ぷちぷちした食感、唐辛子の辛味、ほどよい塩味が渾然一体となった芳醇な味”への探求は今も変わらない。そんな『ふくや』の明太子づくりを誰でも見学できるのが、2013年4月にオープンした『博多の食と文化の博物館ハクハク』だ。工場長・本町聖一さんに案内していただいた。

まずは工場で行われる工程の前についてパネルで説明がある。材料であるスケトウダラの卵はオホーツク海・ベーリング海・アラスカ海など寒い海で漁をしたものであること。スケトウダラのお腹の中では個体によって卵の成熟具合に違いがあり、『ふくや』では真子(まこ)と呼ばれる成熟した卵を中心に使っていること。卵は塩漬けしてつぶつぶ感を出し、一度冷凍され、解凍したものが工場に搬入されること。各段階で厳しい検査が行なわれること…などが説明されている。

「いい卵を仕入れることが重要ですから、卵を調達する職人もいます。また、各段階で“見ただけでも状態がわかる”という職人もいますよ。また、細菌検査・塩分検査・人の舌による官能検査なども行ないます。徹底した品質管理のもと、選び抜かれた材料だけが明太子になるのです。一般的な食品の基準をクリアすることはもちろんですが、より厳しい、“ふくや基準”を設けています」。官能検査とは、人の味覚・嗅覚・視覚などを使って、味・食感・香り・見た目などを評価する検査。官能検査員になるには難しい社内試験に合格しなければならない。

ここから工場見学へ。ガラス越しの漬け込み室では、漬け込み用のタレ(調味液)作り、選別、唐辛子ふりかけ、タレかけが行なわれている。「タレの詳細は秘密ですね(笑)。選別では、1つ1つを手にとってキズ・やわらかさ・色などをチェックし、合格したものだけをばんじゅう(薄型の運搬容器のこと)に並べ、タレかけをします。タレかけは、やわらかさや大きさに合わせてタレの量を調整する必要があるので経験が必要なんですよ。明太子づくりは、人の手でしかできない部分が多いですね」。

漬け込み室の様子

タレかけが終わったばんじゅうは0度の熟成庫に入れられ、タレを吸って少しずつふっくらとした明太子ができあがっていく。熟成した明太子は計量、密封、金属探知などを経て出荷される。 「1つずつ形も重さも違いますから、一定の内容量にするのは難しい作業です。ベテランになると見た瞬間に重さがわかるんですよ。また、明太子はふっくらとやわらかいので取り扱いも慎重にしなければなりません」。

計量・パッキング室。すばやくかつ丁寧に重さを合わせる仕事が進んでいた

工場内には大型機械もあるが、多くの工程が人の手によって行なわれているのが印象的。そして、徹底した衛生管理が行なわれているとのこと。「漬け込み室と計量室はチリ・ホコリや温度・湿度などを制御・管理しているクリーンルームです。空気中のチリ・ホコリの量は一般手術室・集中治療室レベルなんですよ。入る時にも風速23mのエアシャワーを浴びるなど一切のチリ・ホコリを持ち込まないようにしています。気流にも気を遣っている施設で、中の気圧を高くすることで、気流が外側へと流れる仕組みです。また、たくさんの方に見学していただいていますから、工場が見られることでより衛生に気をつけるようにもなりますね(笑)」。

本町さんに目指している明太子についてうかがってみた。「ふっくらとして皮が薄く表面からも粒子が見えるもの、ぷちぷち感があり口の中に明太子の旨味と風味が広がるもの等々ありますね。味は時代によって変わっていくものでもあります。かつては保存のために塩分が強い製品もありましたが、今は冷蔵・冷凍技術の発展もあり必要がなくなりましたので、舌に残る雑味をなくすために使用していません。味付けの変化、仕事の変化と、常に改善意識をもっていかなければなりません。ただ変わらないのは、安全で安心なものを適正価格でご提供すること。美味しいものを作って届けたいという気持ち。昨日よりいいものを作ること。そして、自分の大切な人に自信をもってすすめられるかどうかだと思っています」。

『ハクハク』には、明太子の作り方や歴史を学べる「工場見学」の他、自分好みの“my明太子”を手作り体験できる「体験工房」、博多の食・祭・工芸に触れられる「ミュージアム」、「ショップ」、明太子食べ放題の「ビュッフェ」と全部で5つのゾーンがある。

自分好みのmy明太子を手作り体験できる

創業当時の写真展示などに加え当時の『ふくや』店頭を再現したヒストリーコーナーでは、創業者・川原俊夫さんの姿に触れることができる。『ハクハク』を訪れると、明太子のことだけではなく、福岡の様々な文化や歴史を体感することできる。外に展示してある山笠も本格的なものだ。「『ハクハク』が生まれたのは、会社の方針でもある“福岡に恩返ししたい、人の役に立ちたい”という想いからですね」。『ふくや』は、創業者・川原俊夫さんの想いを伝え、守り続けている。

創業当時の『ふくや』を復元、川原さんのパネルも置かれている

この料理人こだわりの「味のキーワード」

スケトウダラの卵

オホーツク海・ベーリング海・アラスカ海など寒い海で漁をしたスケトウダラの卵。真子(まこ)と呼ばれる成熟した卵を中心に使っている

調味液

時とともに変化する特製のタレ。主原料である唐辛子の風味を活かした雑味のない味わいを作る

漬け込み方

塩漬けした卵にタレをかけ、微粉唐辛子をふる。やわらかさや大きさに合わせてタレの量を調整。0度の熟成室で熟成させる

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博多の食と文化の博物館 ハクハク 明太子のすべてがわかる博物館

『ふくや』がプロデュースする、食を含めた博多の文化を体験できる施設。明太子の作り方や歴史を学べる「工場見学」、自分好みの“my明太子”を手作り体験できる「体験工房」、博多の食・祭・工芸に触れられる「ミュージアム」、「ショップ」、明太子食べ放題の「ビュッフェ」からなる。 “ぷちぷちした食感、唐辛子の辛味、ほどよい塩味が渾然一体となった芳醇な味”をビュッフェで!

“f”の文字がデザイン化された包装紙は、創業10周年の時に作られたもの
ショップでは博多のお土産や『ふくや』の様々な商品を販売
入口横には舁山(かきやま)を展示。人形は、博多人形師・中村信喬(しんきょう)さんによるもの

博多の食と文化の博物館 ハクハク

住所 福岡市東区社領2-14-28
電話 092-621-8989
営業 10:00〜17:00(入館は16:30まで)
休み 火曜(祝日の時は翌日休館)
カード
駐車場 あり
入館料 大人300円
my明太子手作り体験 1,500円(要予約)
URL https://117hakuhaku.com
※記載した内容は2020年2月25日現在のものです。
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