アツアツの土鍋の中には海の幸、山の幸
島原の恵みに彩られた具だくさんの雑煮
ふたを開けると湯気がフワリ。土鍋の中には、鶏肉、野菜、カマボコ、高野豆腐、もち…幾種類の具材が入っているか指折るのも楽しい。『具雑煮』は、お正月はもちろん、ハレの日に食されてきた島原の郷土料理。今では、ハレの日でなくてもよく食べられており、観光客の人気も高い。各店、各家庭によって具材も出汁の取り方も様々。島原特産の白菜である『シロナ』を使うことは多いが、決まった材料や作り方があるわけではなく、たくさんの具材が入っているから『具雑煮』なのだ。出汁をとる時に使う水は、たいていの場合、島原の美しい湧水。自然に育まれこの水も『具雑煮』に欠かせないものだ。
その歴史は古く、江戸時代には既に作られていたのだという。島原の乱(1637年)の時、原城に籠城した天草四郎率いる一揆軍が、兵糧として持ち込んだ食材で作ったのが始まりという説もある。
「フーフー」。舌を火傷しないように少し冷ましながら、土鍋から直接いただく。島原の海の幸、山の幸の優しい味わいが身体をあたためてくれる。具材の旨味もたっぷりと染みだしたツユは残してはもったいない。島原を思いつつ、最後の一滴まで味わいたい。
具雑煮にまつわる島原の歴史と風土のお話をうかがいに、島原城資料館専門員・松尾卓次さんを訪ねた。 「島原は、冬は寒くないし気候も豊か、海も豊かで、自然に恵まれています。普賢岳のおかげで土地もこえているので、長崎県内の一大農業エリアでもあるんです。住む人ものんびり暮らしていますね(笑)。
正月の雑煮は島原の海の幸山の幸を使い、具がいっぱいです。みそ汁の具も多いんですよ。島原の乱の際に、天草四郎率いる一揆軍は12月の初めから2月の末まで原城で籠城しています。だから時期的に雑煮を食べていた可能性は高いですね。昭和39年に島原城が復元されて、島原を訪れる観光客も多くなり、それと同時に具雑煮も広まっていったようです。いろんなお店で食べられるようにもなりましたね」。
松尾さんも具雑煮はよく食べていらっしゃるのだそうだ。
「具雑煮はお正月に食べますが、お客さんが来ると出前で頼むことも多いですね。島原ではもてなしの料理でもあります。初めて食べるほとんどの方は、『わー、島原の雑煮は具がいっぱいですね』となりますからね。島原の豊かな自然がつまっている、どこに対しても誇れる一品です。坂本龍馬も幕末に島原に訪れていますから、ひょっとしたら具雑煮を食べていたかもしれません(笑)」。
松尾さんは、郷土の良さを伝えようと、島原の研究を日々続けていらっしゃる。
島原は水の豊かな街。雲仙山系で濾過された美しい水は島原市内の50カ所以上の湧水スポットから湧き出しており、1日の湧水量は22万トンとも言われている。雲仙山系に降った雨は、火山灰層や砂れき層で濾過され天然のミネラルも豊富な水となる。普賢岳と島原市の間にある眉山(まゆやま)が地下水に強い圧力を加えることにより自噴しているのだ。島原市では、毎年8月上旬に『水まつり』も開催されている。
鶏肉、野菜、カマボコ、高野豆腐、もちなど十数種類の具材が入っている。島原特産の白菜である『シロナ』を使うことも多い
コンブ、カツオブシなどからとった出汁と醤油などで作られたあっさり味が基本。出汁をとるのに使う島原の湧水も大切な要素だ
数人前を一度に作るのではなく、土鍋で一人前分ずつ煮込んでいく。具材の旨味の出方やもちのやわらかさが適度になるようにする
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