栄養豊かな猪肉とたっぷりの野菜
身体の芯からあたたまる鍋料理
熊本県の山間部には野生の猪が多数生息する。タンパク質やビタミンB群を豊富に含む猪肉は山間部では昔から栄養源としてよく食べられていた。猟が解禁となる秋から冬にかけて、猪肉は脂がのり美味しい季節。寒い時期、猪肉と白菜やゴボウなど旬の野菜をたっぷりと使った鍋料理が『猪鍋』だ。
醤油仕立て、味噌仕立て、水炊き風、すきやき風など味付けは様々。薬味として爽やかな香りとピリリとした辛さを持つ柚子こしょうが添えられることが多い。血抜き、毛抜き、解体などきちんと下処理された猪肉には臭みなどはない。かむほどに赤身と脂身の歯応えと濃厚な旨味が口の中に広がっていく。地域や作り手によって使われる猪肉には皮付きと皮なしがあるが、皮付きの肉は皮のコリコリとした独特の食感を楽しむこともできる。猪肉と野菜の旨味が溶け出したスープで食べるうどんや雑炊といった締めの一品も最高だ。
野山を駆け抜ける野生の猪は木の実など自然にあるものだけを食べるため、安全な食材だと考えられている。熊本では猪や鹿の肉を地域資源として有効に活用するため、『くまもとジビエ研究会』が2012年から活動を行なっている。
『くまもとジビエ研究会』は、捕獲された猪や鹿の肉を『くまもとジビエ』としてもっと有効に活用することを目的に2012年に結成された。メンバーは熊本県が中心となり、狩猟に関わる処理加工施設や関係市町村、県内のレストランなどが集まっている。これまでに料理フェア、試食会、調理学校での特別授業、ジビエ料理教室、ジビエ商談会、シェフ向けの研修会、ジビエ料理を食べられるレストランガイドの制作、ジビエを使った加工品の開発といった様々な活動を行なっている。事務局長の田川敬二さんにお話をうかがった。
●熊本県内のジビエの現状
「猪と鹿は熊本県で年間約47,000頭ほど捕獲されています。しかし、食肉として消費されているのはその3%ほど。残りは活用されていない現状です。ジビエ専用の認可をうけた処理施設は14カ所あり、これからも増えていく予定で、今後さらなる消費につなげていきたいと考えています」。
●狩猟について
「猟期は11月~3月。それ以外の期間も害獣駆除として捕獲されています。鹿や猪は鉄砲で仕留めたり、箱罠と呼ばれる罠(檻の中におびきよせ閉じ込める罠)などで捕獲します。箱罠では、檻に猪が入ったらスマホで知らせるというシステムもあるんですよ。しかし、猪や鹿を獲る猟師さんは高齢化も進み確実に減っています。国もハンターを増やそうと、狩猟の役割やその魅力をPRするイベント等を全国的に行っていますので、県内でも若いハンターさんが誕生することに期待しています。
●ジビエの特徴
「ジビエには個体差があるということが最大の特徴です。1頭ずつすべて肉質や味が異なります。それは捕獲された時期や性別、年齢、食べているエサ、そして捕獲方法や処理方法等、多くの要因が関係しています。そこに販路拡大の難しさがあります。しかし、1頭ずつ異なるからこそ“一期一会”の味なのです。今日の味は今日しか味わえないという“出会いと命への感謝”をもっていただく食材だということを、多くの方に伝えたいと思っています」。
●鹿・猪肉の栄養
「鹿・猪は自然の中で食べられるものしか食べていませんし、そのお肉には美味しさはもちろん、いろんな栄養も含まれています。猪肉には疲労回復などに効果があるビタミンB群が豚肉の3〜5倍含まれ、低脂肪で栄養価の高い食材でもあります。また、鹿肉はカルシウムと鉄分が豊富な上に高タンパクで低カロリー。マラソンなど、持久力が必要なアスリートのみなさんにも注目されている食材です。
●猪肉の味わい
「猪は、脂がのってくる秋~冬が美味しいとされていますが、逆に、脂が少ない方がいいという料理人の方もいます。料理やお客さんの好みによって使い分けられているようです。そんななかで特徴的なのが「皮付き」での食べ方。人吉・球磨地域では“猪は皮付きじゃなかなら、そら豚たい!”(猪は皮付き肉じゃないと意味が無い)」と言われます(笑)。皮付きは特に人吉・球磨地域で好まれているようです。猪肉は塩焼きにしたり猪鍋にして食べられていますが、『骨かじり』もよく食べられています。肉をとった後の骨を煮込んで、骨のまわりについている身を食べ尽くすという料理です。鹿の『骨かじり』もありますね」。
●今後の展望
「会がスタートした2012年はアンケート調査で8割以上の方がジビエという言葉すら知らなかったのですが、最近では8割以上の方に知られるようになり、認知度は確実に高まってきました。2016年秋に発行した『くまもとジビエ料理レストランガイド2016秋』では、ジビエ料理を味わっていただける県内47店舗をご紹介しています。熊本ならではの味として『馬刺し』が知られていますが、『くまもとジビエ』も『馬刺し』のような観光食としてのポジションを目指しています。“毎日食べるものではないけれど、なにかの時に熊本を代表する味として食べる”そんな一面もジビエにあったらいいなと思います。事務所にある冷凍庫には猪肉と鹿肉を保管していて、レストランからの『鹿ロース200gすぐ持ってきて!』といった注文があると私が届けることもあるんですよ(笑)。猟師さん、解体される方々、料理人のみなさん、消費者の方々をコーディネートするのが私の仕事だと思って日々奔走しています。
■くまもとジビエ研究会
住所/熊本市中央区水前寺6-47-18
電話/096-381-6228
http://kumamoto-gibier.com/study.html
スライスして使われる猪肉には皮付きと皮なしがある。白菜、大根など秋から冬にかけての旬の野菜がたっぷりと入る
スープそのものに味をつける醤油仕立て・味噌仕立てにすることが多いが、水炊き風・すきやき風といった食べ方もある
スープで猪肉と野菜類を煮込んで食べる。薬味には柚子こしょうが添えられることが多い。締めはうどんや雑炊だ
3本の中から飲みたい一本をお選びください。
3種類の飲み方からおすすめを一つお選びください。