九州の味とともに 冬

この料理の"味のキーワード"

具材

フル以外に、豚肉や豚肉の塩漬け、つけあげや厚揚げ、キャベツやニンジンなどの野菜などが使われる。家庭ごとで変わる

味付け

醤油ベースに砂糖を加えた甘辛い味や味噌味にすることが多い。こちらも各家庭で様々な味付けがある

作り方

まず肉類を炒め、フル以外の具材を炒める。最後にフルを入れて調味料を加え、ほどよく炒めたらできあがりだ

語り 島料理研究家 泉和子の「フルイキ」

泉和子(いずみかずこ)さん

歴史的背景などを含め、奄美の食文化を広く研究している島料理研究家の泉和子さん。ご自宅を訪ね、『フルイキ』についてのお話をうかがった。「ニンニクは幕末の奄美大島で、根よりも葉を食べることを主として作られてきた伝統野菜なんです。冬の野菜であるフルの香りは、“奄美の冬の香り”でもありますね。だから『フルイキ』は奄美の冬の料理なんです。家庭料理である『フルイキ』の具材や味付けは家庭ごとに違います。具材はフル、豚肉や豚肉の塩漬け、様々な野菜類、つけあげなどがよく使われます。味付けは大きく分けると黒糖と醤油を使った甘めの味と味噌味の2種類ですね。今日は豚の三枚肉の塩漬けとフルだけを使い、黒糖と醤油で味付けするシンプルな『フルイキ』を作ってみます。塩漬けは冷蔵庫のない時代に食品を長持ちさせる工夫ですが、豚肉は塩漬けすることでアミノ酸が増して旨味が深くなるんです。奄美ではよく豚肉が食べられるので、『肉屋』ではなく『豚屋』と呼んでいますよ。『豚屋』に鶏肉やヤギ肉やイノシシ肉も置かれているという感じですね」。

まず、フルを適当な長さに切る。片面が野菜用、片面が肉・魚用に使うまな板だが、泉さんはフルは肉・魚用の面にのせて切る。「フルはにおいが強いですからね。肉・魚の面を使う野菜はフルくらいかな(笑)。白い根元の部分は少し細く切っています。この部分は島みかんやタンカン(奄美の特産品である柑橘)と一緒に漬けて漬物にしても美味しいですよ」。

フルは適当な長さに切る

自家製の豚の三枚肉の塩漬けは、ゆでて塩抜きされる。

豚の三枚肉の塩漬けはゆでて塩抜きしてスライスする

「塩抜きとともに余分な脂も落ちますね。三枚肉をスライスしたら、強火で両面に焦げ目がつくまでしっかりと焼きます。黒砂糖と醤油を入れ、フルを入れて炒めます。」

スライスした三枚肉の塩漬けを炒め、黒砂糖と醤油を加える
フルを入れて炒める

「だんだんといい香りがしてきたでしょう?この香りも奄美の香りです。秋から初冬の食材と言えば、マコモダケ(タケノコに似た食感をもつイネ科の水生植物)もよく使われます。『フルイキ』に入れることも多いですね」。

泉さんが作ってくれた『フルイキ』

『フルイキ』とともに、フル入りマコモダケの炒め物、フル入りマンビキ(シイラ)の味噌汁も作っていただいた。どれもフルの香りの中にそれぞれの具材の風味や味わいが広がる料理だ。

フル入りのマコモダケ炒めとフル入りマンビキ(シイラ)の味噌汁

「フルを使うと見た目の彩りにも香りにもアクセントになって、料理に華やかさが出ます。料理が一気に奄美ならではの香りと味わいになりますね。奄美のお正月に欠かせない三献(さんごん/3種類の料理からなる奄美の正月料理。一の膳はカツオ出汁や昆布出汁を使った吸い物、二の膳は刺身、三の膳は豚などの肉出汁を使った吸い物)の吸い物にもフルを入れますし、大晦日にフルを入れた“すきやき”をよく食べます。この“すきやき”は牛肉を使った一般的なものではなく、豚肉を砂糖と醤油で炒め煮するような料理です。かつては正月の準備のために年末に豚をつぶしていましたからね。たくさんフルを食べると食べた人からニンニクの香りが漂うかもしれませんが、疲労回復など、健康野菜としてまわりにいるみんなも食べてるから大丈夫ですね(笑)」。豚肉との関係が深く、行事食との関係も深いフル。フルは奄美の食文化に深く根ざした食材なのだ。

この料理人こだわりの「味のキーワード」

具材

今回作っていただいた『フルイキ』の具材はフルと豚の三枚肉の自家製塩漬けのみというシンプルなもの

出汁

味付けに使う調味料は、黒砂糖と醤油のみ。こちらもシンプルなものだ

作り方

ゆでて塩抜きした豚の三枚肉塩漬けをスライスして炒める。切ったフルを加え、さらに黒砂糖と醤油を加えて炒める

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