九州の味とともに 冬

福岡 あら鍋

上品で脂がのった幻の高級魚・アラ
その旨味をすべていただく鍋料理

福岡をはじめ九州で『アラ』と言えば『クエ(ハタ科の海水魚)』のこと。希少な魚のため、“幻の高級魚”と呼ばれる食材で、これを使った鍋料理が『あら鍋』だ。

アラは大きなものは体長1mを越え、重さも20kgを超える。表面は黒い色合いだがウロコがついた皮をはぐと一転、白い身が現れる。大型のものは身も厚く脂ののりもいいので特に美味。身と皮の間にはゼラチン質もたっぷりと含まれている。身を刺身にしたり、焼いたりする他、内臓やえらや皮までも食べることができ、捨てるところがない魚だ。『あら鍋』に使うのは骨付きのぶつ切り。昆布出汁やアラの骨からとった出汁などがはられた鍋に入れ、野菜と一緒にポン酢で食べる。やわらかく弾力のある身とトロトロのゼラチン質のハーモニーが、アラならではの味わいを感じさせてくれる。

具材を食べ終わったら、締めは雑炊。アラや野菜の旨味が溶け出した出汁はごはん一粒一粒に染み込み、アラの美味しさがさらによくわかる一品だ。『あら鍋』がよく知られているため、冬のイメージが強いアラだが、実は年中獲れる魚。夏のアラも大型のものは脂がのっていて冬と変わらず美味しいのだそうだ。

あら鍋

アラについて、福岡市の中央卸売市場で鮮魚の仲卸をされている中山商店の代表取締役社長・西尾健一さんにお話をうかがった。

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『アラ』の他、ふぐ、ひらめなどの高級魚を長年取り扱っている西尾さん

●『アラ』の旬
『あら鍋』が有名ですが、アラは年中獲れますよ。夏も美味しいです。ただし、6月頃は産卵の時期なんで少し味が落ちますね。表面の色が黒いアラは特に脂がのっています。私たちは『黒アラ』という呼び方をしていますね。

●漁法と漁の場所
漁法は一本釣りか、はえ縄です。アラ釣りの名人がいるんですよ。アラは岩場の穴の中にいるので、アラがいる場所を知っている漁師さんということですね。とは言え、20kg近くになる大きなアラが一日に何本も揚がるわけではありません。高級魚たる所以です。正月前などはふぐよりも高くなりますね。エリアとしては九州近辺で獲れます。日本海側では石川県あたりまでいるようです。私が小さい頃は福岡市中央区長浜からすぐ近くの伊崎でも獲れていたんですよ。福岡の近場(五島、平戸、対馬など)のアラは脂がのっています。特に五島あたりのアラは旨いですね。アラは肉食でエビやカニを食べます。特に伊勢えびが大好物です。五島のアラはいい物を食べているから旨いのかもしれませんね(笑)。最近は養殖ものもありますが、養殖ものはやはり天然物とは味が違うと思います。刺身では私たちでもわからないのですが、鍋にすると違いがよくわかりますよ。

●捨てるところがない『アラ』
身を食べるのはもちろん、例えばエラは包丁でたたいて血を出してからゆでますし、皮は揚げてせんべいのようにして食べます。内臓も食べられます。ひれにも尾ひれにもゼラチン質がたっぷりついていて珍味ですよ。アラは捨てるところがない魚です。

●なぜ『アラ』と呼ぶのか
アラは本当はクエなのですが、福岡・佐賀あたりではアラと呼んでいます。クエは若い頃に縦縞が9本あるということからそう呼ぶらしいのですが、アラはよくわからないですね。唐津くんち(11月2日・3日・4日に佐賀県唐津市で行なわれる祭)の時はあらの煮付けを食べるのですが、魚の身以外のことを“アラ”ということもあるし、それを煮た“あら煮”というのもありますよね。そのあたりがごっちゃになっているのかもしれません(笑)。あとね、アラはとても荒々しい魚だからなのかもしれません。釣った時にすごく暴れるそうですよ。

取材時に見せていただいた新鮮なアラ

●『アラ』と九州場所
力士のみなさんはアラが大好きなようです。ちゃんこ鍋にも入れますしね。タニマチ(相撲界独特の用語で、後援者・無償スポンサーのこと)が差し入れを持っていく時、魚だとアラ以外はあまり喜ばれないと聞いたことがあります。毎年11月に大相撲九州場所が行なわれますが、この時期、アラは品薄になるし値段も上がるんですよ。

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「あら鍋」、三様。

三人の料理人が語る、それぞれのこだわりとは

この料理の"味のキーワード"
アラと下ごしらえ

身が厚く脂がのった大きなアラが使われることが多い。皮をはぐことでウロコも一緒に取り除いてから下ごしらえする

出汁

ベースとなるのは昆布出汁。具材を加える前にアラの骨を入れて一緒に少し煮ることで、骨からの出汁をとることもある

ポン酢・食べ方

出汁の入った鍋にアラのぶつ切りや野菜を入れ、各店独自のポン酢で食べる。薬味はネギやもみじおろし。締めは雑炊だ

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