だんだんと溶けていく木綿豆腐
嬉野の湯が作るとろける舌ざわり
日本三大美肌の湯でも知られる嬉野温泉。ナトリウムを多く含む重曹泉で、湯につかれば、弱アルカリ性のお湯の力で肌はツルツルスベスベに。そして、この温泉水で木綿豆腐をコトコト炊くと…豆腐の表面がだんだん溶け出して、不思議な湯豆腐ができあがっていく。これは嬉野の温泉水に含まれる成分の絶妙なバランスが、豆腐に含まれるたんぱく質を分解するからなのだ。通常の豆腐は炊けば次第に固くなってしまうが、嬉野の温泉湯豆腐は炊くほどにやわらかくトロトロになる(ただし、炊き続ければ溶けて形をとどめなくなってしまう)。江戸時代、嬉野が長崎街道の宿場町として栄えていた時代に食べられていたという説もあるが、定かではない。
溶けた豆腐でお湯が白濁し、豆腐の角が丸くなってきたら食べ頃だ。くずれないようにそっとすくって、口に運ぶ。まろやかで、とろけていく食感。その後に大豆の旨味が広がっていく。豆腐を食べ終わったら、鍋の中に残った、コクのある“白いスープ”も残さずに味わいたい。旨いだけではなく、嬉野の温泉水は、胃腸や肝臓などの機能を活性化させる効果もあると言われている。
■豆腐
嬉野の温泉湯豆腐を作る豆腐は、私たちが普段よく食べている豆腐と違いはあるのだろうか?
温泉湯豆腐の名店『宗庵よこ長』の湯豆腐に使われる豆腐を作っている『豆匠よこ長』のご主人・小野原博さんにお話をうかがった。
「私が使っている大豆は、嬉野産のフクユタカです。JA佐賀の安心システム(契約栽培、低農薬)で育てたもので、等級も良いものを使っています。外国産の大豆に比べて粒が大きく、色の白い豆腐ができます。甘味も強いし、やわらかいものになりますね。
豆腐作りの手順は、一般の木綿豆腐と同じです。
水に浸けておいた大豆を、水を加えながらすりつぶします。
それを炊いた後、搾って豆乳とおからに分けます。
豆乳に、本にがりを加えて固めます。
簡単に言うとこれが手順なのですが、温泉湯豆腐用の豆腐を作るには、普通の豆腐とは違うところが幾つかあります。まず、豆乳の濃度を濃くしているところ、つまり大豆をたくさん使っていること。極端に言うと、どんなに薄くても豆腐にすることはできるのですが、うちの場合は豆乳濃度が15%あります。濃い豆乳にすることで、甘くて濃厚な豆腐を作ることができます。
次に、豆乳の搾り方。しっかり搾った方が豆乳がたくさんとれて効率が良いのですが、搾り過ぎると豆乳に余分な脂分も入ってしまいます。ですから効率が悪くても、ほどほどに搾ります。
そして、豆腐作りの基本は、きれいな水、温度、にがりです。大豆の状態や、その時の温度などを見極めながら、にがりの入れ方や、入れてからの混ぜ方も変えていくのです。
美味しい豆腐、そして、いい具合に温泉水にとろけるやわらかな豆腐を作るためには、瞬間の状態を見極めてやっていくことが必要なんです」。
嬉野には豆腐作りをしている場所が昔から幾つもある。作り手によって細かな差異はあれど、“温泉水にほどよく溶けて美味しい豆腐”をすべての作り手が目指していることに変わりはない。
■豆匠よこ長
住所/嬉野市嬉野町下宿丁1755-1
電話/0954-42-0563
営業/8:00〜18:00(12:00〜15:00は不在の時があるので電話で確認のこと)
休み/水曜
http://yococho.com/
豆乳濃度の高い木綿豆腐で、材料としては嬉野産大豆フクユタカなどの国産大豆と天然にがりを使ったものが多い
嬉野温泉の温泉水で炊く。豆腐が溶けて角がとれ、全体が白濁したら食べ頃。炊き続けると豆腐は豆乳に戻ってしまう
醤油をベースにして、すりゴマなどが入ったさっぱりとしたタレが主流。豆腐が溶けて白濁した温泉水も全て味わうのが嬉野流
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