九州の味とともに 夏

この料理の"味のキーワード"

下ごしらえ

『たらおさ』を水で戻し、下ゆでした後、適当な大きさに切る。戻し方とゆで方ができあがりの食感を左右する

味付け

味付けは醤油、酒、砂糖、みりんといったシンプルなもの。唐辛子などを加えピリ辛に仕上げることも多い

煮込み方

やわらかくなるまで弱火でじっくりと煮込む。煮込みの後、一晩ねかせて味を染み込ませている

語り 亀山亭ホテル 秋山孝義の「たらおさ」

秋山孝義さん

『亀山亭』は1874年に料亭として開業、1959年に現在の場所で『亀山亭ホテル』として新たなスタートを切った。筑後川の上流である三隈川河畔にあり、夏には屋形船や鵜飼い見学を楽しむこともできる。四季折々の味わいを楽しめる中、日田に馴染みの深い『たらおさ』の煮物も毎年7月中旬から8月中旬まで会席料理の一品として出されている。

料理長の秋山孝義さんにお話をうかがった。
「『たらおさ』は『鱈胃』と書きます。たらのエラや内臓を干したもので、これを煮付けた料理は、日田のお盆には欠かせないものですね。山間の日田で夏に魚介を食べるとしたら、昔は乾物か塩漬けしかなかったでしょうしね。また、たらの乾物は、身の部分はよそで食べられて、日田にはその残りしか来なかったのでしょう(笑)」。

『たらおさ』は魚には見えない形だ。
「ブラシみたいで不気味ですよね?(笑)。マツゲのような部分はエラ、細いところは食道と胃袋です。でも、小さい頃から盆にはあったし、私は怖くはなかったですよ。あたりまえのものと思っていましたから。慣れればなんともないですよ(笑)。いい『たらおさ』は色がきれいで、大きいものですね。大きいものは料理した時に厚みがあって食感がいいんです」。

『たらおさ』と水で戻した後の『たらおさ』

料理は『たらおさ』を水で戻す下ごしらえから行なう。

下ゆでした後で切る

「寸胴鍋の中にたっぷり水を入れて一晩かけて戻した後、水を入れ替えて1時間ほどアクをとりながらゆでます。水で戻す前は干物の匂いですが、戻す時とゆでる時が1番独特の匂いがするんですよ。厨房中に匂いが漂いますからね(笑)。戻したら食べやすい大きさに切ります。

エラの根元はかたいので出刃包丁の根元で切る

ある程度やわらかくなってはいるんですが、エラの根元の白い部分はかなり硬いので、出刃包丁の根元の部分じゃないと切れないですね」。

じっくりと煮込んでいく

切ったものをじっくりと煮込んでいく。
「調味料は酒、みりん、砂糖、醤油です。『たらおさ』から旨味が出るので出汁はいらないですね。水に調味料を加えたもので煮ていきます。うちではさらに、山椒の実を醤油で炊いたものを加えています。山椒のピリッとした風味が合いますから。あとはコトコト煮ていけばやわらかくなっていきます。

エラの根元の部分、ここがやわらかくなるまで煮込む

エラの根元のかたいところがやわらかくなるまで煮ますよ。時間がかかりますから、家庭ではなかなかそこまではできないようです。炊きあがったら、一晩おいて味を染み込ませた後でお客様に食べていただくんです」。

煮込みが終わり一晩ねかせ味を染み込ませたらできあがり

昨日作っていただいていた『たらおさ』の煮物。秋山さんが力を入れて切っていたエラの根元も噛み切れるほどにやわらかくなっている。甘めの味付けは焼酎によく合う。
「食べやすくやわらかく炊いていますが、その中で、エラのぷにぷに感、エラの根元のしっかりした歯応え、胃袋のもちもち感という、部位によって違う食感も楽しんでいただけるといいですね。うちは『たらおさ』だけを炊いていますが、干しタケノコなどの野菜を一緒に炊くこともありますね。私の味付けは甘めではありますが、煮汁はさらっとしています。家々で辛さや甘さは違うのですが、小さい頃に食べていたのは、もっと砂糖を入れて甘ったるくて煮汁はとろみがつくようなものが多かったと思います。甘くすることで保存食にもしていたんです。母親が作ってくれていたものも甘かったですね(笑)。焼酎のつまみにぴったりですが、子どもの時はごはんのおかずはもちろん、甘いからおやつ感覚で食べていたかもしれません。お盆には必ずありましたからね。大皿のものをみんなで食べていました。子どもはやわらかい胃袋のほうを、大人は歯応えのあるエラやエラの根元を食べていましたね。夏バテ防止にもなったような気がしますし、昔はごちそうだったのではないでしょうか?」。

日田の旬の食材を美しい料理につくりあげる秋山さん。最近、日田市がイノシシ、シカ、キジなどのジビエを推進しているということで、それらの食材を使った料理も手がけられているとのこと。
「キジのミンチをシイタケの裏側に詰めて焼く南蛮ステーキや、イノシシ肉のミンチを揚げた肉だんごなど美味しいですよ。これからも地元の食材を大切にしていきたいと思っています。『たらおさ』は、お盆前になるとスーパーにも山積みされていて、売り場に匂いがあふれています(笑)。知らない人はどうやって作るのかわからないでしょうね。日田を代表するこの味を、若い料理人たちにもしっかりと教えていかなければならないと思っています」。

この料理人こだわりの「味のキーワード」

下ごしらえ

『たらおさ』を水で一晩かけて戻す。水を入れ替えて1時間ほどアクをとりながらゆでた後、食べやすい大きさに切る

炙り方・食べ方

調味料は酒、みりん、砂糖、醤油。さらに写真の“山椒の実を醤油で炊いたもの”をアクセントとして加えている

その他のたらおさ料理

エラの根元のかたいところがやわらかくなるまでじっくりと煮込み、一晩おいて味を染み込ませればできあがり

このページを共有・ブックマークする

亀山亭ホテル三隈川のほとりに建つ老舗ホテル

前身となる料亭『亀山亭』は1874年開業、1959年に現在の場所で『亀山亭ホテル』としてスタートした。筑後川の上流である三隈川河畔にあり、夏には屋形船や鵜飼い見学を楽しむこともできる。四季折々の味わいを楽しめ、毎年7月中旬から8月中旬まで会席料理の一品として『たらおさ』の煮物が付く。甘めの味付けの中、ピリッとする山椒の実がアクセントだ

小鉢に盛られた『たらおさ』の煮物
※昼の会席料理(3000円〜・税別)や、宿泊時の食事の一品として食べられる。要問合せ
『鮎の塩焼き』。
※昼の会席料理(3000円〜・税別)や、宿泊時の食事の一品として食べられる。要問合せ
宝泉寺(ほうせんじ)産の大きなしいたけにキジのミンチを入れて焼いた南蛮ステーキ。すりおろした梨が入ったタレも美味だ。
※昼の会席料理(3000円〜・税別)や、宿泊時の食事の一品として食べられる。要問合せ
イノシシの肉団子の揚げ物。そのままでもほどよい塩味だが、甘酢あんをかけるとさらに旨味が増す
※昼の会席料理(3000円〜・税別)や、宿泊時の食事の一品として食べられる。要問合せ
落ち着いた個室で食事をいただける

亀山亭ホテル

住所 日田市隈1-3-10
電話 0973-23-2191
営業 ※電話で問合せのこと
休み なし
標準和室43室、特別室3室
カード
駐車場 あり
URL http://www.kizantei.com/
お店情報をプリントする