『山太郎ガニ』の甲羅を取った後、まるごと細かくすりつぶす。そこに水と味噌を加えて混ぜ合わせ、ザルで丁寧に濾す
濾したものを弱火で温める。ゆっくりと温めることによって、カニの旨味が凝縮された、ふわふわの固まりができあがる
より食べやすくするためと、味わいにアクセントをつけるため、すりおろしたショウガとネギがよく使われている
城下町・飫肥にも近く、美人湯でも知られ、山と緑に囲まれた北郷温泉郷。『大藤即売所 さくら茶屋』は、この温泉郷に程近い場所にある。地元の野菜や特産品の即売と合わせて食事処も併設されている。使われているお米は宮崎県産で、『チキン南蛮定食』『ホルモン定食』など、ボリューム満点で手頃な価格のメニューが並ぶ。
『かにまき汁』は毎年9月~12月頃に食べられる季節限定品。スタッフの井野典子さんにお話をうかがった。
「私は北郷ではなく油津(日南市にある海沿いの街)の出身なので、元々は『かにまき汁』を知らなかったんです。初めて言葉だけを聞いた時、『卵をアレンジして、カニに巻いたようなものが入っているのかな?』と思いました。でも、イメージとは随分と違うものでしたね」。
その作り方は…。
「『山太郎ガニ』をきれいに洗った後、ツメを切り、甲羅を外します。さらによく洗っておきます。
バラバラにしたカニと水をミキサーにかけ、少しして味噌をいれて、さらにミキサーを回します。味噌は麦と米の合わせ味噌。塩を少し入れることもありますが、基本的に味付けは味噌だけですね。
はじめはミキサーからガリガリという大きな音がします。粒々が細かくなるまでミキサーを回します。昔はみなさん、臼と杵でカニをつぶしていたそうですが、それはかなりの力仕事になりますね」。
ミキサーの中でトロトロになったものを細かい目のザルで濾す。
「私は念を入れて4回濾しています。甲羅の破片や、オスのハサミについている毛も、しっかりと取り除くことができ、食べた時の食感がよくなるんです。『かにまき汁』を美味しく作るコツは、カニをきれいに洗うことと、丁寧に濾すことだと思います。それから、濾したものを冷凍しておけば保存することもできますよ」。
あとは温めればできあがりだが、温め方にもコツがあるようだ。
「濾した汁を鍋に入れて温めますが、決してかき混ぜてはいけません。はじめは、やや強い火にして、鍋の縁の方が泡立ってきたら弱火にします。そして、おたまで外側の熱い汁をすくっては内側にかけることを繰り返して、全体に火を通していくのです」。
段々と汁は透明になっていき、カニの旨味が凝縮された、ふわふわとしたものが汁の上に浮かんでくる。
「できあがったら、固まったものをできるだけ壊さないようにおたまですくって、器にひっくり返すようにして注ぎます。小皿に、すりおろしたショウガとネギを付けていますのでお好みで入れてみてください」。
味噌仕立てなのに、とても澄んだ汁、ふわふわとした食感とともに訪れるかにの旨味。珍味であり、やさしい味わいだ。
「独特の味わいがあるので好みはありますが、北郷の方々はみなさん好きだと思います。この地方では『かにまき汁』のことを『かにまき』と呼ぶ方も多くて、お盆を過ぎた頃から『かにまきありますか?』という問合せも増えます。みなさん待っていらっしゃるんです」。
『かにまき汁』は北郷のみなさんの秋に欠かせない味なのだ。
甲羅を取ったカニ、水、味噌をミキサーにかけて粉々にする。細かい目のザルで4回濾してなめらかにする
鍋の縁が泡立ってきたら強火から弱火にして、おたまで外側の熱い汁を内側にかけることを繰り返して火を通す。決してかき混ぜない
すりおろしたショウガとネギが薬味。小皿にのせ、添えられるので、好みの量を加えて食べる
地元の野菜や加工品を販売している即売所に併設された食事処。『チキン南蛮定食』や『ホルモン定食』などボリューム満点のメニューが並ぶ。『かにまき汁』は毎年9月~12月頃の期間限定メニュー。カニをきれいに洗うこと、すりつぶしたカニと水と味噌を合わせたものを、きれいに濾すこと、ゆっくりと温めることに気を配りながら作られている。