白焼き(素焼き)した後、タレにつけて焼くことを数回繰り返し蒲焼きにする。タレは継ぎ足しながら使い続ける各店秘伝の味
固めに炊いたごはんに、蒲焼きにも使うタレをまぶして、時間をおいたり蒸したりして、味を染み込ませている
タレの味がついたごはんに、蒲焼きの切り身と錦糸卵をのせて蒸す。蒲焼きはふっくらとなり、ごはんには蒲焼きの旨味が加わる
柳川観光で有名な、どんこ舟による川下りの終点は、掘割沿いに柳が揺れる沖端地区。創業は安政年間、この沖端で200年以上の歴史を持つのが『若松屋』。掘割にも、うなぎが焼けるいい香りが漂っている。焼き場は入口横にあり、道に面しているのだ。換気扇はあるが扇風機はない焼き場で、汗だくなのは店主・本吉伸佳さん。
「朝からずっと焼いているんですよ。毎日、仕事後のお風呂が楽しみですね。じいちゃんもそう言ってました」。
捌かれたうなぎを仕入れ、白焼き(素焼き)にするところから本吉さんの仕事は始まる。
「うなぎは江戸風に背中を開いた背割りです。関西は腹割りなのですが、腹割りは切腹をイメージさせるということで、江戸では背割りだったんです。関東では一度蒸してから焼くのですが、柳川では炭火で直焼きします。柳川の焼き方は関西風なんですよ。うなぎは最近だと宮崎や鹿児島も有名ですが、昔はこの辺りでたくさん獲れていて、子どもがつかまえて小遣い稼ぎにしていたという話もありますよ」。
生のうなぎを炭火の上に置かれた網にのせるところからが手作業だ。
「皮の面から焼き始めます。熱いですけれど、箸でやると、ちぎれたりするので手でやるんですよ。焼けてくると縮んできます。特に腹側の身の厚い部分が焼けにくいところなので、ここを手で触って確認しながら焼いていきます。1匹ずつうなぎの状態は違うので手で触って確認するのが一番なんですが、手が熱いです。
白焼きは20分くらいかけてじっくりと。白焼き十分にすることで、身と皮の間にあるうなぎ独特の臭みを消すことができます。それから、白焼きを十分にしないと、やわらかくならないし、タレの味が染み込みにくくなりますね。白焼きもメニューとしてお出ししていますよ。あっさりしているので、もみじおろし、三杯酢、わさび醤油などで食べていただいています。焼酎のつまみにもいいですね」。
白焼きができあがったら、タレをつけながら焼くという蒲焼き作りだ。
「毎日新しいタレを作り、それを継ぎ足しながら使っています。うなぎをタレに通すことで、うなぎの旨味がタレにうつっていくんですね。2回ほどタレにつけて焼くのですが、やはり1匹ずつ状態が違うので、同じようにしても同じように焼けませんから。ひっくり返し方や、タレのつけ方など調節していますね。生から蒲焼きが焼けるまで、早くて30分くらいです」。
『鰻のせいろ蒸し』に使うごはんにも、昔から変わらない下準備が施されている。
「ごはんは限界まで水を減らして固めに炊き上げます。固めじゃないと、できあがった時にべちゃべちゃになってしまいますからね。蒲焼きにも使うタレをごはんにまぶして、味が染み込むように20〜30分寝かせておきます」。
錦糸卵も手作りだ。
「一つのボールに卵50コ分が入っていて、一枚ずつ焼き上げます。卵を割るだけでも大変です」。
味が染み込んだごはんの上に、切ったうなぎの蒲焼きと錦糸卵をのせ、蒸す。
「蒸すことで、蒲焼きの旨味と卵焼きの旨味が、ごはんに落ちてくるんです。錦糸卵の色も映えますね。この作り方は、柳川だけのもののようですね。蒲焼きのうなぎの両端は、上下(かみしも)と言いますが、うちではせいろ蒸しなどのお料理には使いません。タレの味見のために食べることもありますが、袋に入れて売っていますよ」。
蒸し上がるまでに器のお話をうかがった。
「ごはんを入れる器は『中子(なかご)』と言います。中子の下に敷いている巻きすのようなものは、『ハゼ』と言いますね。昔の器は今の2倍近くの大きさがあったんですよ。もともと腹持ちがいい料理ですが、漁師町だったので、量もたっぷりだったんですね。うちでも大きな中子でお出ししていたこともあるんですよ。中子の外側にある器が朱塗りなのは、料理が映えるようにということでしょうか」。
できあがった熱々の『鰻のせいろ蒸し』をいただく。
「山椒もありますが、まずは何もかけずにそのままで食べてみてください。山椒はうなぎの臭み消しなんですよね。うちのじいちゃんがいつもこう言ってました。『山椒なんかなくても旨いうなぎを焼きあげんといかん』。だから、うちは昔は、山椒は置いてなかったんです」。
タレと一体化したうなぎの身は、フワフワトロトロ。ごはんの一粒一粒に、ほどよい燻香も染み込んでいる。うなぎの臭みは感じられない。
「白焼きも蒲焼きも錦糸卵も手作りです。なにもかもが人の手じゃないと無理ですね。『ハゼ』に使われているひもが切れた時も私たちが修繕しています(笑)」。
うなぎと言えばやはり土用の日を中心とした夏に食べたくなるが、この地域の方々は一年の節目の時期にも、よく食べるそうだ。
「出前もやっていますが、お正月やお盆などは、帰省で帰ってこられる方もいらっしゃるので忙しくなります。実は大晦日の出前も多いんですよ。特に山陽新幹線開通後は、観光の方も増えました。『また来たい、また食べたい』と言っていただけるものを提供したいといつも思っています。味はもちろん、スタッフみんなで笑顔のおもてなしを心がけています!」。
炭火でじっくりと白焼きしたうなぎを、秘伝のタレにつけて蒲焼きにする。焼き加減は手で確認している
水加減を少なくして固めに炊いたごはんに、蒲焼きにも使う秘伝のタレをまぶす。味が染み込むように20〜30分寝かせる。
タレの味が染み込んだごはんの上にうなぎの蒲焼きの切り身と錦糸卵をのせて数分蒸す。ごはんに蒲焼きと卵の旨味がさらに染み込む
創業は安政年間で、200年以上の歴史を持つ。「うなぎは一匹一匹、状態が違いますから、うなぎに合わせて焼かないといけません」と店主・本吉伸佳さん。白焼き(素焼き)の後は、秘伝のタレをつけながら蒲焼きにし、タレをまぶしたごはんの上にのせてせいろ蒸しに。タレと一体化したうなぎの身は、フワフワトロトロ。ごはんの一粒一粒に、ほどよい燻香も染み込んでいる。
住所 | 柳川市沖端町26 |
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電話 | 0944-72-3163 |
営業 | 11:00〜OS19:30 |
休み | 水曜 |
席 | 150席 |
カード | 不可 |
駐車場 | あり |
URL | http://ww22.tiki.ne.jp/~wakamatuya/ |