2022.12.22

理屈を超えるアイディアは、いつもと違う会議から生まれる。

  • #開発秘話
  • #デザイン

愛される焼酎は、会社の中だけではつくれない。
商品開発の源『味わい会議』を紐解く。

霧島酒造には『味わい会議』と呼ばれる会議がある。主に商品など、新しいものを生み出すときに行う、重要な会議だ。
霧島焼酎の他のラインアップとは一線を画すラベルデザインとなった虎斑霧島も、この味わい会議を経て誕生している。どのような議論を経て、ラベルに虎の顔のモチーフを取り入れた虎斑霧島が生まれたのか、開発に関わった企画室の山元里歩に話を聞いた。

虎斑霧島の開発には途中からの参加だった山元。担当を引き継いだ時点で決まっていたのは、黄麹と黒麹を組み合わせた焼酎をつくること。それに加えて、麹の色を力強い虎模様と結びつけ、虎斑霧島という名前になることも濃厚だった。

味わい会議は、会社の外に出て行うことを基本としている。「味わい」と付いているが、テイスティングはもちろん、ラベルデザインやキャッチコピーなど表現に関わる議論も多い。アイディアが生まれやすい環境を大切にする専務の江夏拓三が名付け親だ。
「ちょっといいレストランに行った時、背筋が伸びて内装や装飾品を丁寧に見てみたくなるような、そんな感覚が大事なんです」と山元は語る。会場によっては、その土地の風土や文化を感じるデザインや物が展示してあるので、そういったものからインスパイアされるとも言う。

例えば、「黒霧島EX」のラベル開発。現在の五角形のデザインを後押ししたのは、屋久島で実施した味わい会議の会場となったホテルだ。 偶然にも多角形になっていたホテルの形状の美しさが参加者全員に納得感をもたらし、デザインに採用することが決定した。屋久島からパワーを得たとも言える。 また、「特別蒸留きりしま」の場合は、鳴門で実施。鳴門海峡を車で渡った時に見えた渦潮に着想を得て、真っ白な瓶に渦模様を施したデザインとなった。

左から「黒霧島EX」、「特別蒸留きりしま<赤>」、「特別蒸留きりしま<白>」

5回もの味わい会議を重ねた虎斑霧島だが、虎の顔をモチーフにしたデザインは、1回目の会議でいきなり出てきたものだった。
「参加者がデザイン案に票入れをしていくんですけど、このときのことはすごく記憶に残っています。もう理由とかではなく、直感で虎の顔のデザインに票を入れたような感じでした。」
特別に票が多かったわけではなかったが、最後までこのデザインは残そうということになった。
「普段の会議室では選んでいないと思うんです。選んだとしても周りから冷静な意見が出て、やめておこうとなるだろうし...。味わい会議の場でよかったと思いました。」と山元は振り返る。

虎の顔のデザインを何とか活かしたいと思ったものの、山元は焦りを感じていた。霧島酒造の商品ラベルとしてはあまりに斬新な方向性だったからだ。霧島焼酎のファンに受け入れてもらえるか。商品の魅力が伝わるか。社内でも納得してもらえるのか。不安を拭うためにも、とにかく突破口を見つけたかった。
「専務の助言もあり、あの頃はひたすら虎について調べていました」と山元は笑う。
ラベルに一番込めたいものは何か。そう考えると、虎斑霧島が持つ味わいに行き着いた。
虎斑霧島には、ふわっと柔らかな黄麹の甘さを感じるという特徴がある。その特徴をデザインで表現できないかと考え、虎の種類まで検証したのだ。
そしてたどり着いたのが“アムールトラ”だった。アムールトラは、他の虎と比較すると、寒いところに住んでおり毛がふわふわとしている。 そのイメージをデザインに落とし込むことで、虎の模様である黒い線がソフトに、表情も柔らかくなり、虎斑霧島のラベルとしてよりふさわしいものになった。

検討に検討を重ね、虎の顔を全面的に扱った虎斑霧島のデザインは完成した。購入してくださった方からは、温かいリアクションをいただいている。
「“思わずジャケ買いしました”という声や、“このラベルデザインでオリジナルグッズを作ってほしい”とのお便りをいただき、チャレンジしてよかったなと感じています」と山元は言う。
味わいに見合ったデザインを最大限新しく表現したこのラベルこそが、この商品を引っ張ってくれている。

開発を進めていく中で、専務は山元に言った。「繊細な部分を懸命に掘り下げるのは、一見ふざけてるように見えるかもしれない。でも、それをいいと思って、感じ取ってくれる人はいるはずだから安心しなさい」と。この言葉は山元の背中を押してくれるものになった。 そして、味わい会議の存在こそが、参加者の感覚的な意見を良い方向にまとめあげる役割を持っていることを痛感した。
「効率化が優先される時代の中、会社の外で会議のセッティングから始める味わい会議はすごく大変です。それでもやっぱり、味わい会議でしか得られない感覚や、味わい会議だからこそ実現できたことがあると思うんです。だから、今の時代に合わせながら、新しい味わい会議の在り方を探っていきたいですね」と山元は語った。

理屈を超えて人を魅了するものをつくり出す。大胆かつ繊細な商品力の源は、味わい会議にあるのだろう。

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