九州の味とともに 冬

この料理の"味のキーワード"

下ごしらえ

皮をむき、適当な大きさに切る。葉を落として2~3日置いておくと切りやすくなるとのこと。煮物に使う場合は下ゆでする場合も多い

煮物

代表的な煮物はぶり大根、ふろふき大根などで、煮汁でじっくりと炊く。旬の冬には郷土料理『とんこつ』の具材に使われることも多い

その他の料理

やわらかく甘みがあるのでそのまま生で食べても美味。酢の物、漬物、(下ゆでして)天ぷらなど、様々な料理でも食べられている

語り 正調さつま料理 熊襲亭(くまそてい) 黒川牧子の「桜島大根」

黒川牧子さん

1966年に開店した『正調さつま料理 熊襲亭』。屋号の前にある“正調さつま料理”とは、“鹿児島のすばらしい素材を使った鹿児島ならではの料理をコース仕立ての料理で伝えよう”と初代が考案されたものとのこと。「さつま揚げ、キビナゴ、とんこつなど、鹿児島ならではの様々な料理は、各家庭で食べられていました。先代社長がそれらを一度に食べられるように懐石料理としてメニューにしてはどうかと発案したのです」と女将・黒川牧子(くろかわまきこ)さん。鹿児島の素材を語る上で『桜島大根』が外せないことを教えてくれる。
「『桜島大根』は、鹿児島の冬を楽しむためになくてはならない野菜ですね。12月の終わりくらいから美味しくなって、旬は寒い時期。なます、煮物、味噌汁の具…小さい頃、冬が来ると料理好きの母が作ってくれる様々な料理で食べていましたね。今はスイカのようにカットされて切り売りされていますが、その頃はまるごと1個売っていました。大きな『桜島大根』をどう食べ尽くすか、知恵を絞っていたのでしょうね(笑)。そこには『旬を味わおう』という昔からの文化も根付いていたのだと思います」。

毎年、年が明けると、お店の入口には『桜島大根』が飾られ、『桜島大根』を使った様々なメニューが登場する。厨房で腕をふるうのは料理長・佐々木等(ささきひとし)さんだ。

料理長の佐々木さんと『桜島大根』

「『桜島大根』が手に入るのは11月末から3月くらいまでですが、うちで使うのは1月から3月まで。『桜島大根』に触れると、『新年が来た』という気持ちにもなりますね。寒い日が来ないと甘みが出ないんですが、最近は異常気象で出荷の時期も変わってしまい困ります(笑)。葉の部分を落として、2〜3日置いておくと切りやすくなるんですよ」。

切りやすくなるように葉の部分を落として2〜3日置いておく

「仕入れたものをすぐに切ろうとしても、包丁が入らないほど硬いんです。切らなくても手にすると重さで良し悪しがわかりますよ。中身がぎっしりとつまっていて重さを感じるものが美味しい『桜島大根』ですね」。

断面を見てもキメの細かさがわかる

「切りたてを生で食べても美味しいですから、大根おろしにしてもいいですし、目が細かくて煮込んでも煮崩れしないので、煮物にしても美味しいですよ。私は子どもの頃は好きではなかったけど、今は美味しいと思うようになりました(笑)」。普通の大根を煮込む時は、米の研ぎ汁を使って下ゆですることもあるが、『桜島大根』は下ゆでする必要がないほどアクが少ないのだそうだ。

『桜島大根』を使った『ぶり大根』『大根田楽』『大根の天ぷら』を作っていただいた。

●ぶり大根
適当な大きさに切った『桜島大根』を水に入れて1時間ほど煮る。ぶりの切り身を入れ、砂糖、醤油、溜まり醤油、ミリンなどで味付けする。「煮崩れしないので、かたそうに見えますが、中はやわらかいんですよ。味もしっかり染み込んでいますね」。最も代表的な煮物料理だ

『ぶり大根』は、1時間ほどゆでた『桜島大根』にぶり、砂糖、醤油、溜まり醤油、ミリンを合わせて煮込む

●大根田楽
適当な大きさに切った『桜島大根』を水に入れて煮た後、コンブ・カツオ出汁、塩、砂糖、ミリン、薄口醤油で煮込んで味付け。甘めの味噌をかけて食べる。

●大根天ぷら
『大根田楽』で味噌をかける前のものに衣をつけて揚げる。何もつけずに食べる。

●春寒(しゅんかん)
『桜島大根』を、シイタケ、ゴボウ、ニンジン、竹の子、コンブ、豚の三枚肉と一緒に煮た醤油味の煮物。鹿児島のお正月によく食べられる郷土料理。

どの料理を食べても、食感は普通の大根とは違うもので、『桜島大根』そのものの甘みが感じられる。
「キメが細かくて美味しいですよね?ほろ甘い感じもいいでしょう? 一度食べたら、みなさんびっくりされます。鹿児島の人はシャイなのであまり自慢しないのですが、私はこの仕事ですから、がんばって『桜島大根』を自慢してます(笑)」という黒川さん。鹿児島の味と、伝統を守りながら新しい形としても提供していきたいと考えている。『桜島大根』についても然り。「『桜島大根』は、煮物に使うのはもちろん、旬の時期には郷土料理の『とんこつ』や『さつま汁』にも使っていますが、天ぷらは創作料理ですね。いろんな形で『桜島大根』の美味しさをお伝えすることができればと思っています」。

最後に黒川さんが“桜島愛”について語ってくれた。
「火山灰が降って大変ではあるし、掃除も面倒だなと思うことはありますが、『桜島が嫌いだ』と思ったことは一度もないんですよ(笑)。見ると癒されるといいますか、鹿児島に住んでいる人間にとってなくてはならないもの、心のよりどころですね。遠くから帰ってきた時も桜島が見えると“帰ってきた”と強く感じますからね。『桜島大根』は桜島からの火山灰で育ち、桜島の名前を冠した大根。そういう意味でも大切な野菜です」。
鹿児島では“大根”のことを“でこん”と呼ぶことも多い。だから、冬の時期、鹿児島ではこんな言葉がよく聞かれるのだそうだ。「桜島でこん、美味しかね」。

この料理人こだわりの「味のキーワード」

下ごしらえ

仕入れた『桜島大根』の葉を落として2〜3日置くことで切りやすくなるとのこと。適当な大きさに切って使う

煮物

代表的な煮物は『ぶり大根』。1時間ほど煮た『桜島大根』にぶりの切り身を合わせて、砂糖、醤油、溜まり醤油、ミリンなどで味付け

その他の料理

薄味をつけ甘めの味噌をかけて食べる『大根田楽』、薄味をつけたものを揚げる『大根天ぷら』、郷土料理『春寒』など

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正調さつま料理 熊襲亭(くまそてい) 素朴なさつま料理を守り、伝える老舗

1966年創業。鹿児島の素材を使った『とんこつ』『キビナゴ』など鹿児島ならではの料理を、コース仕立てにした“正調さつま料理”として伝え続けている。女将・黒川牧子さんが「鹿児島の冬を楽しむために、なくてはならない食材ですね」という『桜島大根』は、冬の時期に『ぶり大根』や『大根田楽』などのメニューで食べることができる。

『ぶり大根』864円
『大根田楽』648円
『大根の天ぷら』648円
『春寒(しゅんかん)』864円
写真は旅行客も気軽に入れる1階。2階には大小宴会場がある
「お一人様でも利用しやすいように」と、2018年におしゃれなカウンター席を増設
鹿児島一の繁華街『天文館』の一角にある

正調さつま料理 熊襲亭(くまそてい)

住所 鹿児島市東千石町6-10
電話 099-222-6356
営業 11:00~OS 14:00/17:00~OS 21:30
休み なし
250席
カード
駐車場 あり
URL http://www.kumasotei.com
お取り寄せ情報 なし
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