九州の味とともに 冬

この料理の"味のキーワード"

猪肉と野菜

スライスして使われる猪肉には皮付きと皮なしがある。白菜、大根など秋から冬にかけての旬の野菜がたっぷりと入る

味のベース

スープそのものに味をつける醤油仕立て・味噌仕立てにすることが多いが、水炊き風・すきやき風といった食べ方もある

作り方・食べ方

スープで猪肉と野菜類を煮込んで食べる。薬味には柚子こしょうが添えられることが多い。締めはうどんや雑炊だ

語り しらさぎ荘 髙山菊江の「猪鍋」

女将・髙山菊江さん

近くに球磨川(くまがわ)が流れ、JR肥薩線を走るSL人吉号の運航日には汽笛の音が聞こえる老舗温泉旅館。敷地内にある熊本県湧水百選に選ばれた湧水池を眺めながら、食事だけを楽しむこともできる。
「お店は、この湧水を使った養殖業から始まり、1957年に鯉を中心とした川魚料理を提供する温泉宿も始めました。湧水は井戸水と一緒で水温が一年中変わらず、冬はあたたかく感じます。鯉もよく育ちますね」。

女将・髙山菊江さんの明るい笑顔を中心に、店内にはあたたかな雰囲気が満ちている。そんな雰囲気とともに寒い時期に身体をあたためてくれる料理が『猪鍋』だ。
「『猪鍋』は50年ほど前からやっています。毎年11〜3月にかけての限定メニューですね。肉は猟師さんが鉄砲でしとめた猪の肉を使っています。首に一発でしとめないと肉の味が落ちるんですよ。また、血抜きのやり方が悪いと肉が臭くなってしまいますね。昔は100kg位の大きな猪が多かったようですが、今は50kgくらいのものが多いようです。大きい猪は脂がのっていて美味しいですね。そうそう、小さい猪の“うりぼう”は…かわいくて食べられないですね(笑)」。

厨房で『猪鍋』の材料と準備を見せていただいた。料理長は髙山さんの息子さん・洋さんだ。直径30cmほどの底の深い鉄鍋にまず白菜が入れられる。

まず白菜を切り、鍋に入れる

「野菜は旬の地のものですね。白菜、ニンジン、サトイモ、シイタケ、シメジ、カボチャ、大根、長ネギなど。さらにキクラゲ、豆腐、コンニャクなども入れます。『しし鍋』は野菜がたっぷり入るとより美味しいですからね」。

その他の具材を鍋に盛りつける

「猪肉は皮付きのものを使っています」。

山盛りの野菜の上にスライスした猪肉をのせ、鍋に水を注ぐ。

スライスした猪肉をのせる

「水は湧水ですから、水自体も美味しいですよ(笑)。うちの『猪鍋』は特製タレで食べていただく水炊き風です。特製タレはシイタケ出汁、薄口醤油、酢などを合わせたものです」。

鍋を火にかけるとやがてグツグツという音が聞こえてくる。ほどよく火が通ったところで、特製タレに薬味の大根おろし、柚子こしょう、ネギを加えて、『猪鍋』をいただく。

鍋をコンロにかけ、具材に火が通ったらできあがり

濃厚な猪肉の旨味が上品な味わいの特製タレで引き立つ。
「水炊きにするとより脂身がやわらかくなるようですよ。その外側にある皮もコリコリした食感で美味しいでしょう? 処理する時に毛は焼いて、さらに剃っているのですが、昔は毛が少し残っていたりして喉越しがチクチクすることもありました。それがいいという豪快な方もいらっしゃいましたが(笑)。『猪鍋』は元々は猟師さんが鍋を山に持っていき、猪を獲って、その場でさばき野菜と一緒に鍋にして食べていたものですからね。以前、飼育されていた猪の肉を試したことがあるのですが、歯応えや味わいが違いました。猪と豚を掛け合わせたイノブタだったのかもしれません。それ以来、うちは“野生”の猪にこだわっています(笑)。野生の猪はいい物を食べているんですよ。ドングリ、椎の実、贅沢に自然薯を食べたりもしています。ですから猪肉はまさに自然の恵み、味わい深いはずですよね」。

具材をすべて食べ終わった後は、雑炊セットを注文して、猪肉と野菜の旨味が溶け出したスープもすべて食べ尽くしたい。

ぜひ食べたい締めの雑炊

「『猪鍋』には十数種類の具材が入っていますからいい出汁が出ます。うちの『猪鍋』にはカボチャも入っていますので、冬至に『猪鍋』を食べられる方も多いんですよ。今日、お出ししたのは3〜4人前用の一番小さな鍋。8人前用の直径50cmほどの鍋もありますよ。それを使い、猪肉だけでなく鯉も入れた鍋料理もおすすめです(笑)」。

猪肉を使った『猪塩焼き』もつくっていただいた。こちらも猪肉の味わいがストレートに伝わるシンプルな料理だ。
「メニューにはありませんが、地元では『骨かじり』という料理がよく食べられています。猪肉がついた骨、大根、ニンジンなどを一緒に煮込んでスペアリブのようにして食べるんですよ。そのスープもとても美味しいです。それから、最近、鹿が増えていまして、猪に加えて、3年ほど前から鹿を使った料理もお出ししています。猪肉と鹿肉が食べられる『ジビエコース』もおすすめですね」。

湧水池のほとりには、時折、しらさぎが姿を見せてくれる。
「人吉は隠れ里と呼ばれています。自然が豊かで水がいい。そしてなにより人がいい。人がいいのが一番かもしれません(笑)」。

地元の方も地元外の方も源泉掛け流しの立ち寄り湯は200円。そんなところにもやさしさが感じられる温泉宿だ。

この料理人こだわりの「味のキーワード」

猪肉と野菜

猪肉は猟師が鉄砲で仕留めた猪の肉で、皮付きのもの。たっぷりの白菜をはじめ地元産の旬の野菜十数種類他の具材が使われている

味のベース

スープに味はつけず、湧水で炊く水炊き風。シイタケ出汁、薄口醤油、酢などを合わせた特製タレで食べる

作り方・食べ方

具材に火が通ったら、特製タレに薬味の大根おろし、柚子こしょう、ネギを加えて食べる。締めは雑炊がおすすめとのこと

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しらさぎ荘 酸味がある特製タレで食べる水炊き風『猪鍋』

近くに球磨川が流れ、敷地内には熊本県湧水百選に選ばれた湧水池がある老舗温泉旅館。鯉を中心とした川魚料理で知られ、食事だけを楽しむこともできる。地元産の十数種類の野菜などを使った水炊風の『猪鍋』は11〜3月の限定メニュー。薄口醤油、酢などを合わせたさっぱり味の特製タレが野菜と濃厚な猪肉の旨味をより引き立てる。

『猪鍋』6480円(税込)(3〜4人前)。ごはんと卵が付く締めの雑炊セットは1人前432円(税込) ※2人で食べたい時は問合せを
『猪塩焼き』756円(税込)
窓から湧水池やしらさぎの姿を見ることができる食事処
宿泊用に4部屋があり1泊2食付き10000円前後(税込)。立ち寄り湯は200円(税込)

しらさぎ荘

住所 熊本県人吉市下林町2647-2
電話 0966-22-3420
営業 11:30〜OS14:00/17:00〜OS21:00
休み なし
80席
カード 不可
駐車場 あり
URL http://www.shirasagisou.jp/
※記載した内容は2017年1月20日現在のものです。
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