九州の味とともに 冬

この料理の"味のキーワード"

ぬか床

基本的な材料は、米ぬか、塩、水、山椒の実、唐辛子、柚子の皮、昆布など。その中で乳酸菌や酵母菌が発酵を続けている。各ぬか床特有の菌も存在する

味付け

醤油、酒、砂糖など基本的な調味料は煮付けをする時と変わらない。そこにぬか床が加えられることにより美味となり、保存食にもなる

炊き方

ある程度炊いた後、ぬか床を入れる。身が柔らかいので、ぬか床を入れた後は弱火でコトコトと炊くが、炊き方にも細かな工夫がされる

語り 宇佐美商店(百年床) 宇佐美久子の「ぬか炊き」

宇佐美久子さん

鮮魚、精肉、青果、惣菜など様々な色や香りの中、店頭で威勢のいい店主たちの声も響く北九州市・小倉にある旦過市場(たんがいちば)。横を流れる神嶽川(かんたけがわ)からの魚の荷揚げ場として大正時代からにぎわう。今も昭和30年代に建てられた木造店舗も数多く残っている味わい深い市場だ。

旦過市場で『ぬか漬け』や『ぬか炊き』を作り、販売しているのが『宇佐美商店(百年床)』。今もお店に立たれている宇佐美信(のぶ)さんが始めたお店は60年以上が過ぎた。一緒にお店に立つ娘さんの久子さんに、ぬか床についてお話をうかがった。

ずっと守られているぬか床

「ぬか床に入っているのは、米ぬか、塩、唐辛子、昆布出汁、山椒、棹前(そーまい)昆布です。棹前昆布は、ぬか床の味を作るだけではなくて、ぬか漬けの一つとしても販売しています。うちのぬか床は、みなさんがイメージされるものに比べると、少しゆるく、水っぽいぬか床です。野菜をたくさん漬けますからね。ゆるいのは扱いやすいんだけど、慣れない人がやると酸味が出やすくなります。家庭用のぬか床は、ある程度かたいものが多いですが、手入れさえすれば、水っぽくても大丈夫なんですよ。水分が多くなり過ぎたら、昆布をたっぷり入れるとかね。ただ、温度管理には注意しないといけません。特に夏は温度が高くなるから、冷蔵庫に入れたり、出したりして発酵を調節してますよ。その手入れだけしっかりやっていれば大丈夫。ぬか床を美味しくするのは、ちょっと面倒だけど、手間をかけることだけですね(笑)。それから、うちのぬか床が赤っぽい色をしているのは、唐辛子が少し多めだから。いくつかの唐辛子をブレンドして入れています。唐辛子も塩も入っているので、慣れてない頃は混ぜる時に手がしみて痛かったですね。今は手も丈夫になって大丈夫です(笑)」。

『ぬか炊き』は店の奥の大きな鍋で作られている。
「『ぬか炊き』に使う魚はイワシやサバ。鍋に、さばいた魚を並べて煮汁を加えます。煮汁の材料は、醤油、みりん、酒、三温糖、水ですね。

イワシを煮汁で4時間ほど炊いた後、ぬか床を入れる

イワシの場合は、4時間くらい炊きます。サバの時は2時間くらいかな。

ぬか床を入れたら10分ほど炊く

じっくり煮こんだところで、ぬか床を取り出して鍋に入れます。早くからぬか床を入れて炊くと、焦げちゃうから最後に入れるんですよ。ぬか床を入れたら10分くらい炊いて、一晩寝かせてできあがりです。炊く時に、1匹2匹じゃ、やっぱり味が出ないみたいです。小鍋じゃなくて一度にたくさん炊くと美味しくなりますね」。

店頭に並べられた『イワシのぬか炊き』

ピリッと甘辛く、旨味が濃いイワシの『ぬか炊き』は、焼酎もごはんもすすみそうだ。この味わいは、単なるイワシの煮付けでは出せない味だ。
『うちのぬか床は100年以上ずっと守られてきたもので『100年床』とも呼ばれています。私のおばあちゃんが嫁入り道具としてぬか床を持ってきたそうです。ぬか漬けの作り方なども一緒にね。けれど、ただ寝かせて、古くなればいいというものではありません。いろんな野菜を漬けていくから、コクが出て美味しくなるんです。なんでも漬けることができるけど、白菜や、キャベツなど、葉物の水っぽいものは、ぬか床がいたみやすくなります。酸っぱくなったりしますね。手をぬくとカビが生えたりするし、やっぱり夏が一番難しいかな。けれど、寒い時も温度管理が必要ですし…、やっぱり手はかかりますね(笑)。ぬか床を増やす時には、生ぬかと一緒に、山椒の実を加えますが、山椒は5〜6月に下処理をして冷凍しておき、小分けにして使うんですよ…本当に手間がかかりますね(笑)』。
ずっと手をかけて守ってきたぬか床あればこその『ぬか炊き』なのだ。

こちらは、一晩経った食べ頃の『サバのぬか炊き』

「ぬか漬けは日本各地にもありますが、『ぬか炊き』は小倉だけみたいですね。元々保存食として作られたようで、ちょこちょこ火を入れておけば、いつまでも食べられるものです。小倉の人間にとっては、母の味でもありますね。『旦過市場』でぬか炊きを出す店も増えて、小倉の名物になってきました。どこもぬか床が違って、味もいろいろありますし、たくさんの方に知っていただけるといいですね」。

旦過市場に行けば、様々な『ぬか炊き』と出合うことができる。

この料理人こだわりの「味のキーワード」

ぬか床

100年以上続くぬか床に入っているのは、米ぬか、塩、唐辛子、昆布出汁、山椒、棹前(そーまい)昆布。唐辛子が多めで赤っぽい色だ

味付け

煮汁に使う調味料は、醤油、みりん、酒、三温糖で、煮付けと同じだ。ここにぬか床が加わることでより深い味わいとなる

炊き方

煮汁でイワシは4時間、サバは2時間ほど炊いた後、ぬか床を入れてさらに10分ほど炊き、一晩ねかせて味を染み込ませる

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宇佐美商店(百年床) 旦過市場で100年以上守られるぬか床

様々な食材や惣菜を売る約160店舗の店が並ぶ北九州の台所『旦過市場』。その中で60年以上に渡って『ぬか漬け』と『ぬか炊き』を作っているのが『宇佐美商店(百年床)』だ。100年以上守り続けられているというぬか床は、野菜のエキスも加わり旨味満点。イワシ、サバ、チリメンなどの『ぬか炊き』に、煮付けだけでは出せない深みを与えている。

『イワシのぬか炊き』1匹200円〜(大きさにより異なる)。『サバのぬか炊き』1切れ200円〜、『ちりめんのぬか炊き』1パック300円などもある
キュウリ、白菜、カブ、昆布、コンニャクなど店頭には、ぬか漬けが並ぶ
ぬか床の材料となる生ぬかや唐辛子も販売している
旦過市場の一角にあるお店だ

宇佐美商店(百年床)

住所 北九州市小倉北区魚町4-1-30旦過市場内
電話 093-521-7216
営業 9:00〜18:00
定休日 日曜
カード 不可
駐車場 なし
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■お取り寄せ情報
イワシやサバの『ぬか炊き』を取寄せ可能。詳しくは電話で問合せを。