九州の味とともに 冬

この料理の"味のキーワード"

鶏もも肉

骨付きのまま焼く店もあれば、ぶつ切りにしてから焼く店もある。ぶつ切りにする店は、ぶつ切りの大きさにまで気を配っている

味付け

味付けのベースとなるのは塩。作り手が厳選した塩や、特製の炒り塩を使っている。薬味として、ゆず胡椒がつく場合も多い

焼き方

単純に炭火の上の網にのせて焼くわけではない。炭火に鶏の脂を入れることで炎を大きく立ち上げ、一気に焼き上げる

語り 居心地屋やまぢ 宮崎本店 黒木浩一の「地鶏の炭火焼き」

黒木浩一さん

目印は店の前に吊るされた青い提灯。
「赤提灯だと、女性一人が入りにくいということで青い提灯にしました。どこにもなくて自分で作りましたが(笑)」。

店主・黒木浩一さんは2001年に『居心地屋やまぢ』を開店。当初より、地鶏のもも焼きは人気のメニューだ。
「当時の一般的なもも焼きはかたく、現在の地鶏とは違っていましたね。昔は、農家などで、地面で飼っているのが“地鶏”みたいな考え方もありましたからね。私自身もかたい肉は苦手だったのですが、『ぐんけい』さんで地鶏を食べて、美味しさに驚きました。それで私も店をやるならこの肉を使いたいと思ったんです。その後、改良もされて『みやざき地頭鶏』となり、より美味しくなりましたね」。

黒木さんは『ぐんけい』のオーナー・黒木賢二さんの従兄弟で、そこで修行もしたそうだ。

現在、黒木さんが使っている『みやざき地頭鶏』。黒木さんは、鶏を育てている生産者の人柄が大切だと考えている。
「鶏でも、作物でも、命あるものを育てるには、育てる方々の人柄がとても大切だと思うんです。かつて、とある生産者の鶏を使ったところ、色も香りも悪く、とても刺身には使えませんでした。丁寧に飼育している方の鶏の肉はやはり美味しい。人柄が出るものなんですね。今は、田野、清武で育てられた鶏を使っています。私たち飲食店は、生産者が丹精込めて育てたものを、食べてくださる方々に届けるパイプみたいなものですね。すばらしい素材を、そのまま出すこともあれば、工夫して出すこともあります。もも焼きも、より美味しく召し上がっていただきたいと工夫を凝らしてできあがった一品です」。

『みやざき地頭鶏のもも焼き』の作り方を教えていただいたが、焼く前の下準備も細かい。

鶏もも肉に特製炒り塩を加えて混ぜる

「もも肉はすじを抜いたり、かたいところは外して、1コ15gくらいの大きさに切り、ボウルに入れて塩をまぶします。塩は炒り塩。詳しい作り方は秘密ですが、乾燥シイタケをさらに乾燥させ、粉末にしたものが入っていたり、昆布、カツオなどの旨味が凝縮されています。この炒り塩を肉にまぶす時、塩が均一に混ざるように、水を少し入れて混ぜます。身と皮の間に塩が入り、そこだけが塩辛くなるのを防ぐためです。塩のかたまりが残っていると、そこを口にした時に全体が塩辛いと感じてしまいますから」。

塩をまぶした鶏もも肉が入ったボウルに、角砂糖ほどの大きさにカットされた鶏の脂が入れられる。

鶏の脂を入れて混ぜ、網の上にのせる

「これは、鶏の脂をかため、凍らせてカットしたものです。宮崎のもも焼きは、炭火に鶏の脂を入れ、炎を上げて焼くのが基本です。私は、それだと少し黒くなり過ぎると感じました。あまり黒くなるとせっかくのもも肉の旨味が弱まってしまいます。それで、もも肉と鶏の脂を混ぜてから焼くという方法で焼いています。もちろん、スモークされた風味がしないと宮崎のもも焼きとは言えないので、ほどよく出る工夫をしています」。

1コ1コに火が通るようにヘラで転がして焼く

大きな炎が上がる焼きの作業は豪快に見えるが、こちらもやはり繊細な仕事。肉の具合や炭火の具合を見ながら網の上でもも肉が焼かれる。
「初めはヘラで転がし、全体がばらばらになるように焼きます。

最後は、全体をひとかたまりにするようにして焼く

だんだん焼けてきたら、全体を一つのだんごのように丸める感じにして、表面の脂のみ落とすように焼いていきます。混ぜた鶏の脂はほぼ溶けていますが、かたまりが残る場合は取り除きます。

鶏もも肉を鉄皿の上にのせ、柚子こしょうを添えて鉄皿を熱する

鉄皿にのせて、鉄皿ごと熱して自家製柚子こしょうを添えてできあがりです」。

炭火の中に脂を入れないとはいえ、やはり大きな炎が上がり、厨房は熱い。黒木さんも頭をタオルでおおっての仕事だ。
「炎で髪の毛が燃えることがあるのでこんなスタイルです。まつ毛が焼けたこともありますよ(笑)。焼き場とカウンター席の間にはガラスがあるので、カウンター席はそこまで熱くはなりませんが、大きな炎が上がると『熱いよ』と言われます。『そこは特等席ですよ。俺の顔も見えるし』と言ってますが(笑)」。

熱々の『みやざき地頭鶏のもも焼き』をいただいた。薫香の中に広がる肉の旨味は、ほどよい塩味があればこその味わいだ。やわらかで弾力のある食感も、いわゆる“かたい地鶏のイメージ”とは違うものだ。
「やわらかいけど歯応えがありますよね。やわらかすぎないのがいいところです。もも焼きは一番の人気メニュー。初めに注文される方も多いですね。『まずこれを食べてから』みたいな感じで。炭火焼きは冷えてもかたくならずに美味しいですからね。みやざき地頭鶏の料理には、シンプルな炭火焼きの他に、ピザソースを加えたチーズ焼き、バターペッパー焼きなども作ってます。チーズ焼きは意外にも年配の男性に受けます」。

今は、『みやざき地頭鶏』を看板に掲げる店も多いが、黒木さんがお店を始めた頃は『みやざき地頭鶏』を出す店は数軒しかなかったとのこと。
「今は100軒を超えていますが、当時は3〜4軒でしたね。始めた頃は、“地鶏=かたい”と思われていましたから、『なんやこのやわらかい鶏肉は』と随分怒られました。でも、だんだんと喜んでくれる方が増えていったんです。先に宮崎県外の方にファンが増えて、それから県内に広がっていったようにも感じました。県内の方に地元のものを受け入れてもらえなかったら、悲しいですから嬉しかったですね。今は、地元の方と観光の方が半々くらいです。宮崎にいらっしゃった方にはぜひ食べていただきたいですね。一緒に20度の芋焼酎もおすすめします!」

この料理人こだわりの「味のキーワード」

鶏もも肉

店主が信頼している生産者が丁寧に育てる『みやざき地頭鶏』を使用。下処理した後、1コ15gくらいの大きさに切る

味付け

乾燥シイタケをさらに乾燥させて粉末にしたものや、昆布、カツオなどの旨味が凝縮されている自家製炒り塩

焼き方

鶏の脂は炭火の中に入れず、鶏もも肉に混ぜて焼く方法で、黒くなりすぎないようにするが、ほどよくスモーク風味を感じるように焼く

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居心地屋やまぢ 宮崎本店 細かな技で焼き上げるもも焼き

目印は赤提灯ならぬ“青提灯”の店。「肉の味は、生産者の方々の人柄に影響されると思うんです」とおっしゃる店主・黒木浩一さんは、丁寧に育てられた『みやざき地頭鶏』だけを使う。自家製炒り塩の作り方はもちろん、そのまぶし方や、炎のあげ方、焼き方にも気を配るもも焼きは、塩味も炭の香りもほどよい。『みやざき地頭鶏』を使ったチーズ焼きやバターペッパー焼きも旨い。

『みやざき地頭鶏もも焼き』大400g2,480円。その他、中300g1,810円、小200g1,320円、ハーフ100g960円もある
胸肉を使い、特製ピザソースとチーズがたっぷりイタリアンな味わいの『みやざき地頭鶏のチーズ焼き』大300g1,530円。その他、中200g1,120円、小100g820円もある
もも焼きを焼く時の炎は、写真の小上がり席からも見ることができる

居心地屋やまぢ 宮崎本店

住所 宮崎市中央通8-28 エビスビル1階
電話 0985-38-6567
営業 18:00〜翌1:00
定休日 日曜
36席
カード
駐車場 なし
URL http://www.yamadi.jp
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