九州の味とともに 冬

この料理の"味のキーワード"

おでんダネ

大根、牛スジ、玉子、コンニャクなどに加えて、『おやし』、『ナンコツ』、『キャベツ』といった都城ならではのおでんダネがある

ツユ

カツオ出汁、コンブ出汁をベースにしたものや、鶏ガラスープを加えたものなど様々。継ぎ足し続けたツユが使われている店が多い

作り方

すべてのおでんダネを同じように煮込むわけではなく、下ごしらえをしたり、煮込む時間を変えたりと細やかに料理されている

語り おでん ジャングル 本野昌明の「おでん」

本野昌明さん

戦後すぐに開店したという『ジャングル』。現在、暖簾を守っているのは4代目・本野昌明さんだ。
「私は板前をやっていたんですが、私の家内のお父さんがここの常連さんで、縁あって私が店を引き継いだんですよ。初めてここに連れてきてもらった時に、おでんの美味しさに衝撃を受けましたね(笑)。私個人としてはナンコツ、キャベツ、きんちゃくが好きでした」。

その味を本野さんが受け継ぎ、守っているのだ。

厚揚げ、竹の子、牛すじ…どれも大鍋に入れる前に下ごしらえされている

毎朝9時から仕込みが始まる。特に時間がかかるのはナンコツだ。
「おでんダネは19品ほどありますが、ナンコツが一番人気です。売り切れることもあって、その後で来たお客さんは『ナンコツないなら、今日はやめとくわ』と言われたりもします(笑)。作るのに8時間かかりますね。生のものを油抜きしてお湯で3時間煮て、下味つけてさらに3時間煮て、その後におでんのツユの中に入れておきます。おでんツユのベースはコンブ出汁、カツオ出汁、鶏ガラスープに醤油を加えたもの。継ぎ足しながらつながっています。閉店後に一度漉したり、店が休みの時にも火を入れたりもしないといけないんです。だから、お店には毎日来ていますね。煮物は一番難しい料理です。難しいけど味を守っています」。

朝、大鍋に仕込んだナンコツと大根は一度引きあげられ、営業前に他の具材と合わせて改めて大鍋に入れられる

夕方、素材ごとに下準備されたおでんダネは、カウンターの内側にあるツユがはられた大きな四角い鍋に入れられる。
「全部別々に作って、最後に合わせるのですが長い時間炊くのはトンコツだけです。大根も1時間炊いたくらいが一番美味しいのではないでしょうか」。

コンブ、豆腐、春菊(冬限定)、糸コンニャク、ナンコツ、キャベツ、牛スジ、タケノコ、カマボコ、きんちゃく…。鍋の中のおでんは美味しそうに並べられている。
「この状態が一番きれいですね。売れていくとおでんダネがあっちいったりこっちいったりしますから(笑)。」

大鍋の中におでんダネがきれいに並べられる

カウンターに座って“おまかせ”でお願いすると、まず出てくるのは、おやし、キャベツ、ナンコツ。おでんダネとしてはあまり見かけないものだ。
「おやしは豆もやしとも言って、大豆のもやし。都城のおでんの特徴ですね。ツユの中に4〜5分入れますが歯応えがいいですよ。キャベツも都城のおでんにはよくありますが、うちが発祥みたいです。こちらはツユに5〜6秒ほどくぐらせてお出しします。葉の厚みがいい具合のものが美味しいですね。ぱりっとした食感で口休め的な意味あいもあります。他に、豆腐のおでんも美味しいですよ、牛スジも、“赤すじ”という赤身が少し残っているものを使っています」。

身も骨も箸でほぐれるほどやわらかいナンコツ

皿に盛られたおでんの上でユズがすられ、すりおろされた皮がふりかけられる。ネギもふりかけられ、からしが添えられてできあがりだ。
「私が初めてここで食べた時、ユズの皮をふりかけるスタイルにも驚きました。今も、冷凍物は使わず、生のユズを使っています」。

出汁が加えられ、味を整える

爽やかで上品な香りと、醤油ベースのあっさり味に箸もすすむ。ツユの味が染み込んだやわらかなナンコツは絶品だ。そして、皿の中でひと際存在感を放っているのが、大きなきんちゃく。
「1コ150円なんです。安いでしょ?昔からなんです(笑)。モヤシ、キャベツの芯、ミンチ、もちが入っています。1日20コくらいの限定品です」。

こちらのおでんの価格は1品100円か150円。わかりやすく安い。

おやしを大鍋に入れるのは数分

都城ではなぜおでんがよく食べられているのか尋ねてみた。
「『都城に行ったらおでんを食べなきゃと言われて来ました』という県外のお客さんもたくさんいらっしゃいますね。けれど、私にはおでんが都城の味という感覚はまったくないんですよ。ただ、うちの周辺だけでもおでんの店が7軒くらいありますから、やっぱり多いですよね(笑)。以前に、おでんについて調べたことがあるんですが、私は、おでんのルーツは中国なのではないかと思うんです。豚肉と大根を鶏ガラスープで煮る料理があるんですが、それが日本に伝わり、出汁の中に様々な野菜を入れるようになったのではないでしょうか?」。

すりおろしたユズの皮とネギをちらしてできあがりだ

『ジャングル』は季節によって定休日が変わる。夏場(5月〜9月)は日曜日、冬場(10月〜4月)は月曜日。それはおでんの持ち帰りと関係があるようだ。
「寒くなると、日曜は家でおでんを食べようという方が増えるようで、持ち帰りされる方が増えるんです。うちでは17時から持ち帰りできますが、早いときは19時に完売してしまうこともあるんです。ツユもたくさん欲しいということで、鍋を持って買いに来られますよ(笑)。麺を入れたりごはんにかけたりして食べていらっしゃるようです。やっぱり都城の方はおでんが好きですね(笑)」。

おでんはこの街で暮らす方々に根付いた“都城の味”なのだ。

この料理人こだわりの「味のキーワード」

おでんダネ

コンブ、豆腐、春菊(冬限定)、糸コンニャク、ナンコツ、キャベツ、すじ、竹の子、カマボコ、きんちゃくなど。季節によっても変わる

ツユ

ベースはコンブ出汁、カツオ出汁、鶏ガラスープに醤油を加えたもの。継ぎ足しながら今に至る。毎日漉したり火を入れている

作り方

ツユの入った大鍋に入れる前に下ごしらえをするおでんダネがほとんど。一番時間をかけて作られているのはナンコツだ。

このページを共有・ブックマークする

おでん ジャングル 『キャベツのおでん』発祥の老舗おでん屋

開店は戦後すぐ。コンブ出汁、カツオ出汁、鶏ガラスープなどをベースにしたツユは、継ぎ足されながら続いてきたものだ。おやし、トンコツといった都城での定番おでんに加えて、ぜひいただきたいのがきんちゃく。大きな包みの中にモヤシ、ミンチ、もちなどがぎっしりと詰まり値段は驚きの1コ150円だ。都城でよく見る『キャベツのおでん』はこちらが発祥。

写真のおでん盛り合せは3人前くらいで2300円。おでんは、牛すじ、竹の子、カマボコ、きんちゃくは1コ150円。その他はすべて1コ100円だ
『きんちゃく』150円。中身もぎっしりでボリューム満点
カウンターにはおでんのいい香りが漂っている
店内の棚には焼酎のキープボトルがぎっしり。500本以上はあるとのこと

おでん ジャングル

住所 都城市栄町9-1
電話 0986-25-2131
営業 17:00〜OS22:00
休み 5月〜9月(夏場)日曜休み
10月〜4月(冬場)月曜休み
27席+カウンター13席
カード 不可
駐車場 あり
お店情報をプリントする