九州の味とともに 冬

この料理の"味のキーワード"

具材

鶏肉、野菜、カマボコ、高野豆腐、もちなど十数種類の具材が入っている。島原特産の白菜である『シロナ』を使うことも多い

ツユ

コンブ、カツオブシなどからとった出汁と醤油などで作られたあっさり味が基本。出汁をとるのに使う島原の湧水も大切な要素だ

作り方

数人前を一度に作るのではなく、土鍋で一人前分ずつ煮込んでいく。具材の旨味の出方やもちのやわらかさが適度になるようにする

語り 姫松屋 姫田誠の「具雑煮」

姫田誠さん

桜並木に囲まれた島原のシンボルともいえる島原城の正面に臨む『姫松屋』は、具雑煮の元祖と呼ばれている店だ。

その物語は
〜島原の乱の時、原城に籠城した天草四郎率いる一揆軍が兵糧としてもちを蓄えさせ、山や海から様々な材料を集めて雑煮を作って栄養をとりながら約3カ月戦ったと言われている。これをもとに文化10年(1813年)、初代・糀屋善衛ェ門が味付けに趣向をこらして生み出したのが具雑煮の始まりと伝えられている。そして、二代目・姫松屋嘉久平により屋号は姫松屋となった〜。

以来、善衛ェ門の味は脈々と受け継がれているのだ。現在は6代目・姫田英治さん、7代目・姫田誠さん親子が味を守っている。

香りもいい澄んだツユ

ツユは、カツオ出汁をベースに醤油を加えるというとてもシンプルなもの。毎日作るツユは一日ねかせて使われる。このツユ作りは姫田英治さんが担当しているとのことだ。
「私は現在修行中です(笑)。島原は水が豊かな街ですが、うちでは、地下からくみ上げている水ですべてをまかなっています。出汁をとるのにも欠かせませんね」と誠さん。

一鍋ずつに具材を入れておく

具材は全13種類。鍋に入れられる順に、シロナ、ゴボウ、皮をむいたレンコン、水でもどした凍豆腐、ちくわ、白蒲鉾、なにわカマボコ、薄焼きの卵焼き、シイタケ、焼きアナゴ、鶏肉、もち、春菊だ。
「シロナは島原特産で、チンゲンサイに似ている野菜で、ワサビのような香りがしますね」。

具材の上からツユを入れて火にかける。途中でツユを継ぎ足す

注文が入ると、もちと春菊以外の具材が入った土鍋にふたがされ火にかけられる。しばらくしたらもちを入れて弱火で煮る。最後に春菊を入れてできあがりだ。具雑煮はすべて一人用の土鍋で作られ、7〜8分でできあがる。1階の厨房に並ぶ40台のコンロの姿は圧巻だ。

ずらりと並ぶ鍋。一度に40人前を作ることもある

「ピーク時にはすべてに鍋が置かれた状態になります。途中でツユを継ぎ足したりもするのですが、こぼれても下の受け皿に落ちるという、世界のどこにもない独自のコンロですね」。

できあがったら、氷水で冷やされた特製の細長いタオルでつかんで、お盆の上に移動させる。

もちを入れ、春菊を入れて一煮立ちさせたらできあがり

運ばれてきた土鍋のふたを火傷しないように開けると、一見、春菊ともちだけのようにも見えるが、もちの下からは次々と具材が現われる。「次は何が出てくるのだろう?」と食べ進めるのもおもしろい。

氷水で冷やしてある特製タオルで鍋をつかんで盆の上に移動させる

野菜の甘味、香ばしい焼アナゴ、具材の旨味も溶け込んだツユの味、それに加えてもちそのものの味も格別。それもそのはずで、もちは毎日作る自家製なのだ。
「もち米を蒸して、家庭用のもちつき機のように回転して練るのではなく、“つく”機械で作っています。それを手作業で一つずつ形を整えます。丸くのばして、中央に少しへこみをつけていきます。もちにつかう水も地下水ですよ」。

蒸し上がったもち米を機械でつく

そうやって作られるもちは、小ぶりで食べやすい。通常のサイズの具雑煮には5コ入っているが、するりとお腹の中に入ってしまう。

一つずつ丸くのばし、中央に少しくぼみをつける

場所柄、多くの観光客も訪れるので、初めて具雑煮を食べるというお客さんも多いとのこと。
「まだ食べたことのない方に島原の具雑煮のことを尋ねられた時は、具の種類がとても多い雑煮だという説明をしますね」。

しかしながら、お客さんは、観光客と地元の方では半々なのだそうだ。地元の方もよく食べているということだ。
「私も小さい頃からよく食べていました。もちは消化もいいし、朝ごはんでもいけますね(笑)。カロリーが低いのもいいですね。島原では1年中食べられています」。

具雑煮は、長く愛されている島原の郷土料理であることに間違いない。

この料理人こだわりの「味のキーワード」

具材

シロナ、ゴボウ、レンコン、凍豆腐、ちくわ、白蒲鉾、なにわカマボコ、薄焼きの卵焼き、シイタケ、焼きアナゴ、鶏肉、もち、春菊の全13種

ツユ

カツオ出汁をベースに醤油を加えて作るというとてもシンプルなもので秘伝の味。毎日作り、一日ねかせてから使われる

作り方

まず、もちと春菊以外の具材が入った土鍋にふたがされ火にかけられる。しばらくしてもちを入れて弱火で煮る。最後に春菊を入れてできあがり

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姫松屋 一鍋ごとに炊き上げる、江戸時代から続く味

創業1813年の具雑煮屋。創業以来、カツオ出汁を基本に特製の醤油を使って作るツユも、13種類の具材も変わらない。土鍋の中には、食べ進めていくうち、次から次へと具材が登場。シロナ(島原白菜)などの野菜は甘く、焼きあなごは香ばしくていいアクセントだ、毎日スタッフの手で丸めるという一口大の餅にも、ツユの味がしみこんでいる。

写真の『具雑煮』並はもち5コ入りで980円、大はもち8コ入りで1180円。具雑煮(並)に、いなり寿司と果物が付いた『具雑煮定食・梅』1200円などもある
窓からは島原城が見える店内

姫松屋

住所 長崎県島原市城内1-1208
電話 0957-63-7272
営業 10:00〜20:00
休み 第2火曜
200席
カード 不可
駐車場 あり
URL http://www.himematsuya.jp/
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