九州の味とともに 冬

この料理の"味のキーワード"

具材

鶏肉、野菜、カマボコ、高野豆腐、もちなど十数種類の具材が入っている。島原特産の白菜である『シロナ』を使うことも多い

ツユ

コンブ、カツオブシなどからとった出汁と醤油などで作られたあっさり味が基本。出汁をとるのに使う島原の湧水も大切な要素だ

作り方

数人前を一度に作るのではなく、土鍋で一人前分ずつ煮込んでいく。具材の旨味の出方やもちのやわらかさが適度になるようにする

語り 天下の味処 ほうじゅう 宮川豊寿の「具雑煮」

宮川豊寿さん

美しい水が湧き出る水の街・島原。
「島原は湧水が豊富やけん、湧き出る水がもったいないと思いまして、店の中にも水路を作りました(笑)」と店主・宮川豊寿さん。

『天下の味処 ほうじゅう』の店内にはなんと小川が流れている。
「生け花も水道水だと3日しかもたないものが、この水だと1週間もつんです。みそ汁も味噌が半分でいいみたいですよ。島原の清らかで美味しい水は『具雑煮』を作るのにも欠かせませんね。この水じゃないといい出汁はとれんのですよ」。

ツユは、水、昆布、カツオ、イリコから生まれる出汁にうす口醤油を加えて作られる。鍋にツユをはり、白菜、ゴボウ、えのき、ちくわ、しいたけ、鶏肉を入れて火をつける。火をつけて4〜5分、白菜から旨味が溶け出し、生のゴボウからもいい出汁が出る。鶏肉はあらかじめ炙ることによって旨味とともに香ばしさも加わる。煮たってきたら、こちらも別に焼いておいたもちを入れ、赤いかまぼこと春菊を入れて一煮立ちさせたらできあがりだ。

もちと春菊以外の具材を鍋に盛り、ツユを入れる

野菜の旨味が凝縮されたツユは甘味をもったすまし汁のよう。焼くことで香ばしい風味を持つもちにからまる白菜やゴボウの歯応えもいい。
「白菜が甘くなる冬は、もっと美味しくなりますよ。魚も野菜も冬は甘味が多くなって旨いですね」。

煮込みながら、同時にもちを焼く

小さい頃から島原の雑煮は名物だったという宮川さん。当時はもちをたくさん食べていたのだそう。
「雑煮は場所によって味が違うものですが、具材が多い島原の雑煮は昔からよく知られていたようです。私が小さい頃は、正月に1日でとしのしこ(年齢の数だけ)もちを食べんといかんかったですもんね。しかも当時のもちは大きかった(笑)。今の子どもはもちを食べなくなったので、もちがあまり入ってない雑煮もあったりするようです。しかし、今でも60歳以上の方が食べるもちの量はかなり多いですね。今では正月にもちを作る家も少なくなってきてしまいましたが、島原では1年中食べてますね。籠城した天草四郎の一揆軍が命をつなぐために、食べていたと言われていますが、今ほど豪華ではなかったかもしれませんね」。

もちを入れて少し煮込み、最後に春菊を入れる

具雑煮の他、タイ、ヒラメなど有明海の新鮮な魚介や、地元の旬の野菜を使った和食も自慢の一品。中でも『がんば寿司』は宮川さんオリジナルだ。
「島原ではフグのことを『がんば』と呼びます。がんば寿司はフグをさばいて湯引きして氷水で冷やし、しそなどを加えてつくる押し寿司です」。

湯引きするということで、ここでもやはり“水”が重要だ。また、寒ざらしも、特に夏場に人気のそうめんも、この水なしに作ることはできない。
「地下水は年間通して16度くらいで、かんざらしを冷やすにもぴったりなんです。島原の湧水は私にとってなくてはならないものですね」。

宮川さんの技と清流なくして『ほうじゅう』の味は生まれないのだ。

※寒ざらし/寒ざらし粉(白玉粉)で作った小さな団子。蜂蜜をベースにした蜜と一緒に食べる

この料理人こだわりの「味のキーワード」

具材

使われる具材は、白菜、ゴボウ、えのき、ちくわ、しいたけ、鶏肉、もち、赤いかまぼこ、春菊の9種類

ツユ

昆布、カツオ、イリコからとった出汁にうす口醤油を加えて作られる。島原の清らかで美味しい水も欠かせない素材となっている

作り方

焼いた鶏肉と、もちと春菊以外の具材をツユに入れて煮る。生から野菜を煮ることで旨味もより出る。もちは焼いたものを入れて香ばしさを出す

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天下の味処 ほうじゅう 具雑煮と一緒に島原ならではの魚介の味も

島原の湧水と昆布などを使った出汁をベースにしたツユで、白菜やゴボウなどの具材は生から炊き上げ、それぞれの味を引出す。鶏肉と餅は軽く炙っておくという一手間をかけることによって、旨味の中に香ばしさも加えている。“がんば寿司”をはじめ有明海から揚がった魚介類も美味。店の扉を開けると中央に小川が流れているという店の造りもおもしろい。

『具雑煮』630円。定食1350円には、具雑煮、寒ざらし、がんば寿司(ふぐの押し寿司)が付く。1550円の定食だと、さらにふぐの唐揚げもつく
『がんば寿司(ふぐの押し寿司)』1050円
『地獄そうめん(にゅうめん)』420円。島原はそうめん作りも盛んな場所だ
店内の小川にも驚くが、上からタコ壷を吊るすなどおもしろい飾りもある

天下の味処 ほうじゅう

住所 長崎県島原市新町2-243
電話 0957-64-2795
営業 11:00〜24:00
休み なし
75席
カード 不可
駐車場 あり
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