九州の味とともに 夏

この料理の"味のキーワード"

下ごしらえ

『干しわらすぼ』を木槌などでたたく。中にある骨を砕いてやわらかくする。炙った後で食べやすくするためだ

炙り方・食べ方

反ったり波をうったりしないようにおさえたり網ではさんで焼く。何もつけずにそのままかじるのが基本的な食べ方

その他のわらすぼ料理

春から夏にかけての旬の時期は刺身や、生の身を甘辛く炊いた『わらすぼ』を食べることもできる。味噌汁に入れる地域もあるとのこと

語り 鮨処 だるま寿し 小野和則の「わらすぼ」

小野和則さん

「『干しわらすぼ』はこんな状態で届くんですよ」。

『干しわらすぼ』を見せてくださる小野さん

頭の部分にひもが通された『わらすぼ』を見せてくださったのは、『鮨処 だるま寿し』の店主・小野和則さんだ。
「『すぼ』は、昔は20本が一単位でしたが、今は10本が一単位。今はひもですが昔はワラを編んだものが使われていましたね」。
『わらすぼ』は地元では『すぼ』と呼ばれることも多いようだ。

地元で一番よく食べられている『干しわらすぼの炙り』を作っていただいた。

『干しわらすぼ』を丁寧に叩く

まず、『干しわらすぼ』を炙る前に叩く。
「木槌でもいいんやけど、手作りの道具で叩いてます(笑)。そのままだと骨が硬いので、叩くことでやわらかくするんですよ」。

尾のほうを持って叩き、90度回転させてさらに叩くことで、全体をまんべんなくやわらかくするのだ。干物だが粉々になることはない。
「金槌だとちょっとかたすぎるので、この道具がいいですね(笑)」。

網ではさんで天火で焼く

叩いた『わらすぼ』は網にはさんで焼く。
「天火で焼いて、片面が焼けたら裏返します。網ではさんでおかないと反り返ってしまうんですよ」。

香ばしい香りが漂ってきたらできあがり。その食べ方は…。
「頭の部分を外し、手でもって食べてください。でも、そんなにかたくはありませんから頭も食べられますよ」。

噛み応えがある干物というイメージではなく、何層にもなった密度の濃いパイのような食感。そこから濃縮された海の旨味が広がってくる。
「炙ったものを少しちぎってフグのヒレ酒のようにして飲むのが好きな方もいらっしゃいますね」。

白石町が地元の小野さんは、『わらすぼ』を獲りに行かれたこともあるのだそうだ。
「『すぼかき』(長い釘抜きのような道具)という道具を使って獲る方法があります。農家の人たちは、農閑期にそのやり方で自分の家で食べる分を獲っていたんです。潟スキーみたいなのに乗って獲るのですが、私も子どもの頃におやじに連れられて獲りに行ってましたよ。そして、干して食べてました。ちなみに、『すぼかき』で獲ると傷が入るので長くもたないですね。けれど、『わらすぼ』は本来はとても“生(しょう)の強い魚”(※生命力が強い魚という意味)なんです。水の中じゃなくても1週間くらいは生きてますからね。潟物(がたもの)はどれも見た目は良くないけど生命力は強いですね。漁師さんたちは網で獲りますから新鮮で活きのいい『わらすぼ』を持ってきてくださいます。春から夏にかけてが一番美味しい季節ですよ」。

生きた『わらすぼ』は三枚におろして刺身にする

生きた『わらすぼ』をさばくところも見せていただいた。頭に目打ちするが動き回る。内臓を外して三枚におろしてもまだ動きまわっている。
「頭だけになっても動きますね(笑)。ウロコがなくてウナギのようにヌルヌルした表面は紫がかった色ですが、身は赤っぽい色です。皮をはいで切ってから刺身や握り寿司にします。今の時期が身が多いとはいえ、他の魚に比べれば身は少ないですね(笑)。三枚におろした真ん中の部分は油で揚げて骨せんべいにします。『干しわらすぼ』を作る時は、内臓を取り出し、表面のぬめりを取ってから天日で干すんですよ」。

『わらすぼの活き造り』はコリコリ感と脂ののった旨味が口の中に広がる。添えられている青唐辛子の辛味もよく合う。
「有明海にはいろんな魚がいますが、『わらすぼ』は有明海で一番美味しい魚だと思いますよ。見た目はよくないですけど(笑)。干したものも旨いし、生でも旨い。赤身ですがしつこくないし、脂ものっていますからね。ムツゴロウと比べて顔は恐いけど、絶対こっちが旨いと思います(笑)。そして、潟物の刺身にはワサビの代わりに添えている青コショウ(青唐辛子)が合いますね」。

一匹の半身をシャリにのせた『わらすぼ握り』は身の弾力がより感じられる。その他、生の『わらすぼ』の身をがん漬け(アリアケガニをまるごとすりつぶし、塩や唐辛子を加えて発酵させた塩辛)と合わせたもの、『干しわらすぼ』を一度油で揚げてから甘辛く炊いたもの、骨の間に身もしっかりと残っている『わらすぼの骨せんべい』なども美味だ。

1970年8月2日オープンの『鮨処 だるま寿し』の二代目となる小野さんは、常に地元の素材を大切にされている。
「『わらすぼ』はもちろんのこと、クラゲも美味しいですし、有明海の海苔も最高のものです。また、このあたりは干拓地で土地のミネラル分が豊富なので、とても甘くて辛味が少なく、生でかじることができるタマネギもあります。米も美味しいですし、レンコンやグリーンアスパラ、イチゴ(さがほのか)や巨峰も特産品です。これらの素材をしっかり使っています」。

『地場すしの盛り合せ(郷土寿司セット)』には、グリーンアスパラ巻き(3~9月)、タマネギ・カツオブシ・キュウリが入った巻き寿司、イチゴの軍艦巻き(11~5月)などが盛りつけてあった。どれも想像以上に素材の味が濃い。タマネギを甘酢に漬けた“タマネギのガリ”も想像よりも甘く深い味わいだ。
「『海苔の美味しさに驚きました』や『タマネギが本当に甘いですね』など、初めて食べられる方に評価していただけるのはうれしいですね。有明海の魚介、白石平野の農産物…佐賀県の福富というこの地にしかない味をお客様に真心こめてお届けしたいと思っています」。

この料理人こだわりの「味のキーワード」

下ごしらえ

『干しわらすぼ』はそのままだと骨がかたいので、粉々にならないように特製の道具で全体を丁寧に叩いてやわらかくする。

炙り方・食べ方

反ってしまわないように網ではさんで天火で両面を炙ればできあがり。手で持ってそのままかじる

その他のわらすぼ料理

春から夏にかけては、『活き造り』(写真)や『握り寿司』が食べられる。『干しわらすぼ』を油で揚げて甘辛く炊いたものや骨せんべいなどもある

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鮨処 だるま寿し佐賀県福富の素材を大切にする寿司屋

有明海の魚介や白石平野の特産品を使った寿司が食べられるお店。『郷土寿司セット』では、白石産の甘く辛味の少ないタマネギの入った巻き寿司や、グリーンアスパラ巻き、珍しいイチゴの軍艦巻きなどを楽しめる(※季節によって内容は変わる)。海苔の旨さも絶品だ。『わらすぼ』は干したものの炙りはもちろん、春から夏にかけては『活き造り』や『握り寿司』などもある。

『干しわらすぼの炙り』2本500円
身のコリコリとした食感がたまらない『わらすぼ活き造り』2,500円
『わらすぼ握り』は1コ300円。身が大きく切ってあるので弾力感がより感じられる
『わらすぼ』の身をがん漬け(小型のカニをまるごとすりつぶし、塩や唐辛子を加えて発酵させた塩辛)と合わせたもの(手前)と、『干しわらすぼ』を一度油で揚げてから甘辛く炊いたもの。各300円
『地場すしの盛り合せ(郷土寿司セット)』1,575円。グリーンアスパラ巻き、タマネギ・カツオブシ・キュウリが入った巻き寿司、イチゴの軍艦巻きなどが付く
カウンターに座れば地元の食材の話を聞くこともできる
国道444号線、『福富三差路』交差点地下にある

鮨処 だるま寿し

住所 佐賀県杵島郡白石町福富1475-1
電話 0952-87-2147
営業 11:00〜22:00
休み 木曜
70席
カード 不可
駐車場 あり
※記載した内容は2015年6月22日現在のものです。
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