九州の味とともに 秋

この料理の"味のキーワード"

あんの材料

基本的な材料としては、いかの切り身の他、いかのすり身、魚のすり身、卵、ネギなどがよく使われる

作り方

あんの材料を合わせ、ほどよい大きさに丸めたあと、ワンタンの皮を細く切ったものをまぶすようにつけ、蒸し上げる

タレ

『いかしゅうまい』がもついかの風味を引き出すポン酢。『いかしゅうまい』専用に作られた特製のものが多い

語り 海中レストラン萬坊 呼子本店 店主・太田順子の「いかしゅうまい」

代表・太田順子(おおたじゅんこ)さん

1983年創業の『海中レストラン萬坊』は海に浮かぶ船のような店で、橋で渡って店内へ。階段を降りた海中席の窓からは魚の姿も見え、まるで水族館のようだ。時折ゆらゆらと心地よい揺れを感じながら『いかの活造り』をはじめとした新鮮ないか料理を食べられる。

海に浮かぶ『萬坊』。白い店舗の左側が海そのものとも言える生簀だ

代表・太田順子さんにお話をうかがった。「『萬坊』は私の父が作ったお店です。呼子はかつて漁などで栄えていた街ですが、当時はいか料理はあまりなかったように記憶しています。父の時代から、いかで知られるようになっていきました。ですから、呼子のいか料理はそこまで古い歴史をもっているわけではないんですよ」。開店当初から変わらない人気メニューは『いかの活き造り』。店舗の横にある生簀は水槽ではなく、海の一部を網で囲った海そのもの。そこから引きあげられたいかは、3分ほどで『活造り』へと変わる。

「『活造り』はスピード勝負です。時間がかかったり水道水に触れたり、手で触る時間が長いといかは白くなってしまいます。(殺菌した)海水で洗い、切っ先だけを使う素早い包丁さばきによって透明でコリコリとした歯ごたえのいい活造りを作りあげることができるのです。写真を撮っていただくのもいいのですが、まず食べていただきたいですね(笑)。醤油は少しだけをおすすめします。塩とレモンの絞り汁をふりかけて食べるといかの甘みがより感じられますよ」。

訪れる9割以上の方が注文されるのは『いかの活造り』が食べられる『いかコース』。コースには『いかしゅうまい』も付く。呼子でいか料理を出す多くの飲食店のコースメニューで『いかしゅうまい』が提供されるが、『いかしゅうまい』は『萬坊』発祥の料理だ。

「海水を使った生簀でも、いかはそんなに長くは生きられません。それをなんとかしたい、漁師さんが獲ってきてくださった大切ないかを無駄にはできないという想いから生まれた料理が『いかしゅうまい』なのです。当時の料理長が四苦八苦していたのを覚えています。地元の漁師さんがいかの身をフードプロセッサーですり身にしていたのをヒントに和食の「しんじょ」のようなものを思いつき、しゅうまいという形に変化していきました。まだ食べられたことがない方は、外側の部分はいかを細く切ったものと思っていらっしゃるようですが、あれはワンタンの皮を細く切ったもの。これは中華料理のココナッツ饅頭を見てヒントを得たようですね。蒸し上げると花のように開いてきれいでもありました。こうやって味も形もそれまでになかった『いかしゅうまい』という新しい料理が生まれたのです。当初はすべて手作りしていましたが、今は機械で行なう部分もあります。しかし、いかのすり身の状態など、勘に頼る部分や手作業も多いのです。そして、とにかく材料にこだわっています」。

現在、『いかしゅうまい』は駐車場の奥にある工場で製造されている。工場を訪ね、生産部・岡本慶太 おかもとけいたさんに案内していただいた。

『いかしゅうまい』の工場を案内してくれた岡本さん

「あんの材料はいかのすり身と切り身、たらのすり身、タマネギ、卵、塩です。いかは上身のみ、タマネギは産地指定のもの、卵は植物性原料のみの飼料で育てる鶏のもの、塩はにがり成分をたっぷり含む海塩といずれも上質なものです。

材料となるいかとタマネギ

すべて合わせたものを切って丸め、ワンタンの皮を細く短冊状に切ったものでくるみます。特に最後の形を整える作業は丁寧に行わなければなりませんので、1コずつ手作業です」。

最後は手作業で1コずつ丁寧に丸められる

できあがった『いかしゅうまい』は蒸して急速冷却され、各店舗や取寄せ依頼先に発送される。「保存料を使用せず、作り置きもしていません。注文を受けてから、受注生産なのです。美味しい『いかしゅうまい』を呼子からお届けしたいという想いでがんばっています。朝市などに行っていただくとわかると思うのですが、とにかく呼子の女性は元気です。『いかしゅうまい』を1コずつ大切に作り続けている先輩女性スタッフたちには、私もかないませんね(笑)」。

できあがった『いかしゅうまい』は工場内で蒸されて出荷される

できあがった『いかしゅうまい』一部はレストランにも運ばれ、注文が入ってから蒸して提供される。昆布出汁、カツオ出汁、醤油、酢などを合わせた『いかしゅうまい』専用のタレをつけて口に運ぶとふんわりとした食感と、いかの身のコリコリとした歯ごたえと旨味が広がる。からしを合わせても美味だ。「『いかしゅうまい』は素材の味がそのまま現れるシンプルな料理ですから、やはり素材を大切にすることが一番ですね。タレに使う醤油も佐賀産で加熱していないものですから風味がいいんですよ。蒸して食べる他、揚げても美味しいですね。お吸い物に入れたり、茶碗蒸しに入れたりしても美味しいので、お取り寄せいただいて、ぜひ試していただければと思います。いかとトマトは合うので、トマトソースパスタに入れて楽しんでいる方もいらっしゃるようですよ」と太田さん。

注文が入ってから厨房で蒸しあげる『いかしゅうまい』

誕生から30年以上が過ぎ、多くの人に親しまれている『いかしゅうまい』。太田さんがうれしく感じたエピソードを教えていただいた。「とあるデパートで当店の『いかしゅうまい』を販売しているのですが、私が売り場の前にいた時のことです。幼稚園くらいのお子さんが若いお母さんの手をひいて『いかしゅうまい!』とおねだりしていたんです。その時、『いかしゅうまい』がお子さんにも愛されているんだな、世の中に浸透したのかなと、胸が熱くなりました」。素直な子どもの味覚は誰よりも厳しいもの。安心・安全な素材を使い守り続けている『萬坊』の『いかしゅうまい』は、すべての世代にやさしい味わいなのだ。

この料理人こだわりの「味のキーワード」

あんの材料

上身のみのいかの切り身とすり身、佐賀産のタマネギ、植物性原料のみの飼料で育てる鶏の卵、海塩などが使われている

作り方

あんの材料をすべて合わせたものを切って丸め、ワンタンの皮を細く短冊状に切ったものでくるむ

タレ

昆布出汁、カツオ出汁、醤油、酢などを合わせた『いかしゅうまい』専用のタレ。薬味としてからしが添えられる

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海中レストラン萬坊 呼子本店 海に浮かぶ『いかしゅうまい』発祥の店

上質ないか、産地指定のタマネギ、鶏の飼料にも配慮した卵など、すべての素材を大切にした『いかしゅうまい』。いかのすり身と切り身が入り、旨味とともにフワフワ感とコリコリ感を楽しめる味わいだ。海に浮かび時折心地よく揺れる店の横は海そのものと言える生簀。そこで泳ぐいかをほんの数分で仕上げる活造りも変わらない一品。

『いかしゅうまい』単品は3個660円で、蒸しか揚げを選べる
いか活き造り、いかしゅうまいなどが付く『いかコース』2860円。土曜・日祝日はプラス440円でごはんをうにごはんに変更できる
写真は水族館のような海中席。窓の位置が水深約4mとのこと。海上席からは海の風景を楽しめる

海中レストラン萬坊 呼子本店

住所 唐津市呼子町殿ノ浦1944-1
電話 0955-82-5333
営業 11:00〜OS17:00
土・日・祝日10:30〜OS19:00
休み 毎月第3木曜日※変動あり
190席
カード
駐車場 あり
URL http://www.manbou.co.jp
※記載した内容は2019年11月22日現在のものです。
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