九州の味とともに 秋

この料理の"味のキーワード"

具材

ゴボウ、大根などの根菜類や特産のシイタケなどの他、椎葉で獲れるイノシシ肉が使われることも多い

味付け

具材から出る出汁をベースにして、味噌で味付けされることが多いが、醤油仕立てでも食べられている

作り方

具材を煮込んで味付けする。ソバ粉に水を合わせてこね、だんごを作って入れる。ほどよく火を通してできあがり

語り 民宿 焼畑 店主・椎葉ミチヨの「わくど汁」

女将・椎葉ミチヨさん

椎葉村の中でも一際山深い向山(むかいやま)地区。標高約900m、椎葉村でもっとも高い位置にある民宿が椎葉勝(しいばまさる)さん・ミチヨさん夫妻が営んでいる『民宿 焼畑』だ。築100年という椎葉の伝統的な家屋。樹齢200年以上の杉材を使ったたんすなども趣深い。勝さんは今も日本で唯一、生業として焼畑農業を行なっている。宿の食事では、自家製の野菜の他、焼畑で育てられたソバや雑穀などを使った料理も食べられる。『わくど汁』もお二人が多くの方に伝えたいと思っている料理の一つ。料理を作るミチヨさんにお話をうかがった。

「今日の具材は、シイタケ、ゴボウ、イノシシの肉ですね。イノシシの肉は手に入った時だけ使うので、ない時は入っていません。確率は50%くらいかな(笑)。大根がある時は大根を入れることもありますね。野菜はすべて自家製です。出汁のベースはイリコ出汁で、炒めたイノシシ肉と野菜を入れて煮込み、味噌で味付けします。イノシシ肉は炒めておかないと臭みが出るんですが、いい出汁が出るんですよ」。味付けされた“汁”の中にソバのだんごを入れる。だんごのこねかたがポイントのようだ。

自家製のソバ粉

「ソバは自家製で、うちでは皮が二割入った粗挽きにしています。だから普通のソバ粉よりも色が少し黒くなっています。ボールにソバ粉を入れて指でさわって熱いくらいのお湯を加えてこねます。煮た時にやわらかく仕上がるように、できるだけゆるくこねるのがコツですね。でも、あんまりゆるいとだんごの形にならないし、広がってしまうのでそこは勘なんです」。

熱湯を入れてできるだけゆるくこねる

「そして、おたまで切るようにして形を作って鍋に落とすのですが、おたまにくっつかないようにするのもけっこう難しいんですよ。スピードも必要です(笑)。落としただんごが鍋の中で上下する様子がカエルの動きに似ていることで『わくど汁』と名前がつけられたようですね」。器についでネギとミツバをちらせばできあがりだ。

おたまで切るようにして、具材を煮込み味付けした汁の中に入れ、さらに煮込む
器につぎ、ネギなどをちらす

『わくど汁』は宿泊すれば夕食で食べられるが、昼食でも食べることができる(要問合せ)。取材時の昼食メニューは、『わくど汁』、野草の天ぷら、煮しめ、雑穀ごはんなど、どれも身体に染み入るような味わい。『わくど汁』の中に浮かぶソバのだんごの味わいも格別だ。 「今年(2019年)は8月3日に山を焼いて、土を耕してソバの種を蒔きました。9月中旬には白い花が咲いてきれいですよ。ソバは種を蒔いて75日で収穫できると言われていますので、11月末が新ソバのシーズンです。新ソバはすごく香りが強くて粘りがあります。そばがき(そば粉にお湯を加えて練り、そのまま食べる料理)を作る時など、私では混ぜきれないほどの粘りなんですよ。もちろん新ソバを使った『わくど汁』はとても美味しいです。ぜいたくなだんご汁になりますね(笑)」。大地が育てた自然の恵みを一番美味しい時期にいただくことは、何よりのぜいたくかもしれない。

「秋はシイタケの炭火焼とか、シイタケを薄く切ってポン酢で食べるしゃぶしゃぶもいいですよ」。ミチヨさんに、宿の裏手にある畑に案内していただいた。「ここでもソバを栽培しています。今は(取材時は8月下旬)小さな芽が出てきたとこですね。種は蒔いたらほうきでちらして、後はそのまんま。何もしませんね(笑)。椎葉の暮らしの基本は自給自足で、どの家でも野菜などを育てています。みんなで助け合いながらやっていることも多いですね。私は小さい時からこの村にいますが、みんな知り合いだし、みんな人がいいんです」。宿で出される食事の食材はほとんどが自家製のもの。宿を営むかたわら、お二人とも昼間は農作業を行なっていることが多い。「お電話いただく時は17時以降でお願いします。天気がいい日はずっと外にいますから(笑)」。“生きる”こと、“食べる”ことの原点が感じられる場所だ。

この料理人こだわりの「味のキーワード」

鮎の下ごしらえ

シイタケ、ゴボウ、大根など自家製の野菜を使う。イノシシ肉が手に入った時は具材として使うとのこと

すし飯

イリコ出汁と野菜から出る出汁をベースに味噌で味付け。イノシシ肉を使う時はイノシシ肉からもいい出汁が出る

作り方

具材を煮込み、味噌を加える。自家製ソバの粉にお湯を加えてできるだけゆるくこね、おたまで切るようにして入れる

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民宿 焼畑 “焼畑”で育つソバや雑穀を味わえる宿

椎葉でも一際山深い場所にある民宿。焼畑農業を今も継承する椎葉勝さんと、奥様のミチヨさんが営んでいる。料理は四季折々の野草を使った天ぷら、伝統的な煮しめ、焼畑で収穫されたヒエ・アワが入った雑穀飯など。『わくど汁』はイリコ出汁でゴボウやシイタケを煮たあと味噌を溶き、ソバのだんごを加える。焼畑で育つソバがもつ深い香りと甘みに驚く。

やわらかな食感のソバのだんごが入った『わくど汁』
昼食は1200〜1500円(要予約・写真は1200円の一例)。
※『わくど汁』を希望する場合は予約時に伝えること
囲炉裏もある食事処。梁や柱の色が歴史を感じさせる
建物は築100年、椎葉の伝統的家屋だ

民宿 焼畑

住所 東臼杵郡椎葉村不土野843
電話 0982-67-5516
営業 ※昼食利用は要相談
※電話での問合せは17時以降に
※宿泊は1泊2食付き7560円〜
カード 不可
駐車場 あり
URL http://www.asia-documentary.com/yakihata/
※記載した内容は2019年9月30日現在のものです。
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