九州の味とともに 秋

この料理の"味のキーワード"

鮎の下ごしらえ

鮎の背びれ、中骨、ワタを取り除き塩でまぶす。塩を洗い流した後、酢で締めておく。背中側から包丁を入れ、背開きすることが多い

すし飯

炊いたごはんに砂糖、塩、酢などを合わせる。鮎の身の旨味を引き立てる味付けだ。米どころである地元の米が使われることが多い

作り方

背開きした鮎の身にすし飯をはさむように詰め、適当な大きさに切る。半身をすし飯の上にのせるスタイルもある

語り 鶴之湯旅館 店主・土山大典の「鮎ずし」

店主・土山大典さん

『鶴之湯旅館』は球磨川沿いに建つ、1954年創業の温泉旅館。珍しい木造3階建て(地下1階)だ。「私の曽祖父が建てた宿なんです。かつてはダムがあって、宿の前はダム湖となっておりボート部の合宿なども行なわれていたんです。一時期休館していた時期もあったのですが、この建物を一日でも長く残したいという気持ちで、私が引き継ぐことにしたのです」。店主・土山大典(つちやま だいすけ)さんは熊本市内での仕事を離れ、2016年11月に温泉宿としての営業を再開させた。すべてを一人で切り盛りされているとのこと。「宿泊は1日2組限定です(食事だけの利用も可能)。1階は食事等のスペースで、2階に1組、3階に1組ですね。エアコンはなく夏は蚊帳、冬は火鉢と昭和の生活そのままなんですよ。もちろん、テレビもありません(笑)。ケータイの電波も届きにくいですね」。

昔ながらの静かな雰囲気を求めて、遠方から訪れる方も多い。「万人受けする宿ではないので(笑)」という土山さんが特に力を入れているのが食事。山菜を採りに行ったり、畑仕事をして自ら育てたり、漁の手伝いをしたりしながら地元産の食材を集めている。「たくさんのみなさんの力を借りてやらせていただいています。私の作る料理は基本的には、田舎料理、川魚料理ですね」。

夏から秋にかけて欠かせない食材が鮎。目の前を流れる球磨川で獲れる天然の鮎だ。「川漁師さんのお手伝いをしていますが、鮎は刺し網漁ですね。球磨川の天然鮎はキュウリやスイカのようないい香りが特に強いんです。鮎漁の解禁は6月1日〜11月中旬で、お盆を過ぎたくらいから大きくなり、黄色い模様もはっきりしてどんどん美味しくなっていきます。特に9・10月は大きくて美味しい鮎が獲れますね。このあたりでは体長も長くてまるまると肥えた鮎のことを“鯖のような鮎”と呼んでいますよ。かつては球磨川にはすごくたくさんの鮎がいたようです。80代の方に話を聞くと、『おれらの時代は川が真っ黒になるほど鮎がおった。川に入ったら、足に鮎が当たりよった』と言われますよ。旅館前は湯の瀬と呼ばれているのですが、大きな岩が顔を出していて、湯が湧き出している部分もあるんです。それで岩に苔がよくつきます。それを鮎が餌にするので、他の場所よりも大きい鮎がいるんです。そして、場所によって流れの速さが違いますが、流れが速いところにはいい鮎がいます。流れが速いと鮎も鍛えられるのでしょうね」。

土山さんに『鮎ずし』を作っていただいた。
「鮎は背中から包丁を入れて背開きにするんです。背びれや中骨を取って塩をした後、塩を洗い流して2時間ほど酢で締めておきます。すし飯は地元の米を炊いたごはんに砂糖、塩、酢を合わせたものですね。酢で締めた鮎にすし飯をつめて形を整えておきます」。

酢で締めた鮎の身にすし飯を詰めて形を整えておく

「適当な大きさに切ればできあがりです。この作り方も地元の方に教えていただいたものですね。そのまま食べていただいてもいいですし、醤油をつけてもいいですね」。

適当な大きさに切って盛り付ける

天然鮎の香りと旨味、さっぱりしたすし飯が一つとなって口の中に広がる。「頭の部分は、ちょっとかたい部分もありますし苦手な方もいらっしゃるかもしれないですが、試してみてください。球磨川の天然鮎は本当に美味しいと思います。鮎が美味しいものを食べているからなのでしょう(笑)。時間が経って少し固くなったものは、焼いて食べても美味しいんですよ。それから、このあたりでは麹を加えて発酵させる『ねまりずし』も作られていますね」。

球磨川の天然鮎を使った『鮎ずし』

そのほかに土山さんが作る鮎料理には、塩焼き、甘露煮、ムニエル、鮎めし(地元の米、きのこ、鮎の身などを鍋で炊いたもの)などがある。「今日(取材は7月下旬だった)の鮎は小さくてすみません!(笑)」。春は山菜、夏から秋は鮎、冬はいのししなどのジビエ…旬の素材を使った料理で訪れる方をもてなす土山さん。「古い建物ですし、本当に何もないのですが、自然は感じていただけると思います。川を眺めたり、川のせせらぎやヤマセミ・カワセミ・アカショウビンなどの野鳥の声を聞きながら本を読まれたりと、来てくださるみなさんものんびり過ごしていただいています」。自然の中に身を置き、自然が育んだ食材を使った料理を食べ、静かに過ごす。それはなによりのぜいたくな時間かもしれない。

この料理人こだわりの「味のキーワード」

鮎の下ごしらえ

鮎は背中から包丁を入れて背開きにする。背びれや中骨を取って塩をした後、塩を洗い流して2時間ほど酢で締めておく

すし飯

すし飯は地元の米を炊いたごはんに砂糖、塩、酢を合わせたもの。鮎の身の旨味を引き立てる味付けだ

作り方

酢で締めた鮎の身にすし飯をつめて形を整えておく。適当に大きさに切ればできあがり。醤油と合わせても美味

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鶴之湯旅館 木造三階建ての空間で食べる天然鮎

創業1954年。球磨川沿いに建つ、木造三階建ての温泉旅館。訪れる方々をもてなす料理の食材は、店主自らも栽培したり漁の手伝いをしたりしながら集めた地元産のものだ。夏から秋は鮎料理のシーズンで鮎の塩焼き・甘露煮・ムニエルや『鮎ずし』などを食べられる。特に9〜10月は、球磨川で獲れる天然鮎が美味しい時期になるとのこと。

『鮎ずし』と食事に付く料理の一部。ランチ2000円〜は2日前までに予約。料理の内容はその日によって異なるので問合せを
1階の食事スペース。川風が入ってくるので夏でもそこまでの暑さを感じない
真空管アンプとLPによるレコードコンサートが行なわれることもある
横にはJR肥薩線が走っており、『SL人吉』や『ななつ星』の姿を見ることもできる

鶴之湯旅館

住所 八代市坂本町葉木1007-2
電話 0965-45-8050
営業 ※宿泊は1日2組で1泊2食付き7452円〜
※ランチ(2000円〜)利用は2日前までに予約を
カード 不可
駐車場 あり
URL https://tsurunoyu.localinfo.jp
※記載した内容は2019年9月20日現在のものです。
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