九州の味とともに 秋

この料理の"味のキーワード"

素材

高森の田楽には、つるの子いもと豆腐は必ず入る。その他は、コンニャク、季節の野菜、ヤマメなど家や店で異なる

味噌

基本は、仕込んでから3年熟成させる『三年味噌』。山椒や柚子を入れたり甘さを変えたりと、作り手が一番工夫するところだ

焼き方

高森の店では、囲炉裏の炭火で焼くことが多い。まず素材だけを焼き、表面が色づいたら味噌を塗って焼き、香ばしさを出す

語り 田楽 奥阿蘇 杉永八千代の「田楽」

杉永八千代さん

「田楽は囲炉裏で食べるお正月のおもてなし料理でもありましたね。小さい頃からよく食べていましたが、その頃はつるの子いもと豆腐だけでしたよ。1本の串にいもがぎっしりささってました。本当にいもばっかり(笑)。私は、今はあまり食べないけど、やっぱり田楽の中ではいもが好きですね」。
店主・杉永八千代さんのそんな想いもあってか、『田楽 奥阿蘇』の『田楽定食』にはつるの子いもの串が2本、合計6個のいもが付く。

ホーロー鍋に入れられた特製味噌

「ホクホクで美味しいですから、たくさん食べてください(笑)。つるの子いもは、10月下旬~11月くらいに収穫です。昔は、土を掘って穴を開けそこに埋めておいて、春くらいまで食べてたんですよ。土の中で熟成させたいもも美味しいですね。その穴のことは芋釜(いもがま)と呼んでましたよ」。
今では生の状態で冷凍したものを、その都度解凍し、下ゆでして串に刺すとのことだ。

串の角度が美味しさの秘訣

オープン時から変わらない田楽のセットは、つるの子いも、にがりを多く入れてかために作ってもらった田楽用の豆腐、下ゆでしたコンニャクとタレに漬け込んでおいたウズラが1本になったもの、ヤマメの計5本だ。
「ヤマメは生簀から出し串に刺して塩をしているので、両面焼いて、塩が吹いたみたいになったら焼き上がりです。他の具材は、両面を軽く焼いてから味噌をつけて軽く焼き目をつけて食べてくださいね」。
串をまっすぐに立てると上のほうが火から遠くなってしまい、下のほうが先に焼けてしまうので、串は斜めに立てられる。囲炉裏の中央に置かれた炭火からの距離が、均一になるようにするためだ。

味噌はたっぷりと塗る

山椒の香りが際立つ味噌は、特製の山椒味噌だ。
「味噌は毎年10月くらいに一年分を作るんですよ。米味噌、麦味噌、合わせ味噌など、何種類もの味噌をブレンドしています。炊いた麦や大豆や米に麹菌をつけて自分たちで作る味噌もあるんですよ。それを3年ねかせて熟成させます。味噌ができあがったら黒砂糖などを入れて味をつけておくんです」。
見るだけでも味に深みがあることがわかるような味噌は、大きなホーローの器に入れられている。

味噌がいい具合に焼けたら食べ頃

「注文があってから、その味噌に、山椒の実をすりおろして粉にしておいたものを混ぜます。このほうが山椒の風味がいいんです。うちの味噌はあまり甘くしてないし、爽やかでしょう?」
焼く事で香ばしさも加わった山椒味噌の風味は、どの具材とも相性がいい。串2本のつるの子いもも簡単に食べてしまえる。

特製タレに漬け込んでおいたウズラ

田楽定食には、小鉢、生揚げ、よもぎ入りで緑色のだごが入っただご汁、とうもろこしごはん、漬け物などが付く。お米は自家製、料理に使う野菜も自家製のものや近所の友人が分けてくれたものなのだそう。お店ではあるのだが、昔ながらの暮らしのスタイルも残っているのだ。
「竹をナタで割って、串を手作りすることもありますよ。11月は外に大根干して、醤油漬けを作ったりもしますね。そうそう、この間、とうもろこしを干していたら猿が来て、けっこう食べられてしまいました(笑)」
阿蘇たかな漬け。らっきょう漬け、柚子こしょう、大根漬け、白菜漬け…。店の一角には、かつてはどこの家も手作りしていたものが、いくつも販売されている。

とがった辛さではない手作り柚子こしょう

「もともと農家だった家の建物を移築したんですが、このぐらいの店の広さだと、お客さんにも目が届きます。見ていて焦げそうだったら、『あまり焼きすぎないようにして食べてくださいね』と言えたり、食べきれなさそうだったら、『パックに入れてお持ち帰りにしましょうか』と言えたりもしますからね」。
杉永さんのやさしい気配りが、素朴な田楽の味わいをよりやわらかくしているようだ。

この料理人こだわりの「味のキーワード」

素材

つるの子いも2本、にがりが多く入った田楽用の豆腐、コンニャクと特製タレに漬け込んでおいたウズラが1本になったもの、ヤマメ

味噌

毎年仕込む自家製味噌を3年間熟成させてから黒砂糖などで味付けする。注文が入り使う直前に山椒の粉を入れるため、香りが高い

焼き方

ヤマメは塩焼で。それ以外は、両面を軽く焼いてから味噌をつけて軽く焼き目をつけて食べる。焼きムラができないように、串を斜めに立てるのがコツ

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田楽 奥阿蘇 昔ながらの生活から生まれる素朴な味

自家製や近所の友人が分けてくれた野菜を料理に使うなど、昔ながらの生活スタイルで店を営む店主の杉永八千代さん。元は農家だったという古民家の囲炉裏で、素朴な味わいの田楽をいただくことができる。毎年10月に仕込み3年間熟成させた特製味噌は、注文が入ってから山椒の粉を加えて提供する。ホクホクのつるの子いも等にたっぷり味噌を塗って焼き、香りも楽しみたい。

5本の串と、小鉢、だご汁、とうもろこしごはんが付く『田楽定食』1790円。取材時の小鉢はナスビの梅酢味噌和え。梅味噌ももちろん手作りだ
『溶岩定食』2300円には、赤牛、野菜、だご汁、生揚げ、とうもろこしごはんが付く。赤牛はもも身の中心部のみでとてもやわらかい。タマネギ、ピーマンは自家製だ
黒光りする梁や柱が時の流れを感じさせる
国道325号線沿いに建つ茅葺き屋根が目印

田楽 奥阿蘇

住所 阿蘇郡南阿蘇村両併2408-5
電話 0967-62-3228
営業 11:00~OS19:00
休み 木曜(8~11月は無休)
50席
カード 不可
駐車場 あり
URL http://aso-dengaku.com/
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