九州の味とともに 秋

この料理の"味のキーワード"

下ごしらえ

締めて、3枚におろした後、食べにくくならないように小骨の処理をする。表面のヌメリの取り方をはじめ、その方法は様々だ

刺身(薄造り)

骨のない部位を使ったり、骨をうまく処理したりと、プリプリとした歯応えのある食感を最大限に引き出したりと、料理人の腕の見せ所

自慢料理

皮や、皮と身の間のゼラチン質までも美味しく食べさせる料理を各店が工夫し、自慢のウツボ料理を提供している

語り 天草プリンスホテル 吉田完二の「キダコ料理」

吉田完二さん

ホテル内には『唐揚げ、味噌煮、焼切、刺身、湯引き。名物料理~旅の想い出に貴方も挑戦してみませんか?元来、見かけの悪いものほど美味なもの。他では食べられないウツボ料理5品』という看板が!! ロビーには生け簀があって、中には不気味なウツボの姿が!!

『天草プリンスホテル』は平成7年9月からウツボ料理を提供している。その経緯を語ってくれたのは支配人・國武利行さんだ。
「海の幸が豊富な天草では、エビ、カニ、タイ、タコなどが有名でしたが、私たちは、他にも何かないだろうかと、特徴ある天草の郷土料理を探してみました。そうしたところ、ウツボ料理があることがわかったのです。元々、漁師さんが湯引きして食べていたものでした。天草でも食べる地域は少なく、倉岳(くらたけ)、五和、牛深などでした。船の上や、お祝い、お祭り、結婚式などで食べていたようです。このあたりではウツボのことを『キダコ』と呼びます。キダコは天草の呼び名で、鹿児島、宮崎では『キダカ』と呼ばれています。はっきりしたことはわからないのですが、表面のヌルヌルを取ると黄色の色味が増すのでそう呼ばれるのかもしれません。うちではわかりやすいように『ウツボ料理』と呼んでいます。湯引き以外にも、いろいろ考え、試行錯誤しながら最終的に5種類の料理を作りあげました。当時、アイデアとしては120くらいのメニューを考えましたね。本当にアイデアだけですが『うつぼぜんざい』というのもあったんです(笑)。現在ではウツボを使った11のメニューがあるんですが、『ウツボコース』として、うちの原点といえる5つのメニューを提供させていただいています。とても珍しい料理ですので、看板にも“挑戦”という言葉を使いました(笑)」。

生け簀からウツボを揚げてバケツに入れて調理場まで移動。写真のウツボの重さは約3kg

実際の調理法を厨房長・吉田完二さんに見せていただいた。生命力の強いウツボは、生け簀から引き上げて締めるのも一苦労だ。生け簀からあげてバケツに入れるが、バケツから飛び出さないようにフタをして調理場へ。

脳天に一撃をくらわせ、まな板の上に固定する

ウナギをさばくように、頭に目打ちして切れ目を入れて神経を抜き、3枚におろしていく。小さな骨も一緒に切るのでギリギリという音も響く。おろした後は金タワシで表面のヌメリを取る。

3枚におろしていく。骨を切る時はギリギリという音がする

「ウツボは生きていないと使えないし、締めるのも大変ですし、おろすのもとても大変。小骨が多いので、その後に骨をそぐ方法も難しいんです。さらに、皮はヌルヌルしているし、皮と身の間がプニュプニュしていて皮が動くので、包丁が入りにくい。なかなか面倒な魚ですね(笑)。けれど、ウツボは皮の不気味な模様と違って内側の身はとてもきれいで美味しいですね」。

丁寧に下ごしらえされたウツボが料理されていく。

身を薄く切り刺身はできあがる

●刺身

「刺身にはヘソ(肛門)から頭に近い部分の背中の骨がない部分を使いますが、刺身にできるのは全体の1/5程度の量なんですよ。刺身はさばいてから10分ほどして切ります。すぐに切ろうとしても、まだ動くので切りにくいんですよ」。

見た目も味もフグ刺しと変わらない刺身

フグ刺しのように皿に美しく盛りつけられた刺身は、ポン酢ともみじおろしでいただく。身もしまり味もフグと優劣つけ難い。この味わいは新鮮なものでしか味わえないのだそうだ。下関から来たお客さんに『フグより美味しい』と言われたこともあったのだそう。最後に、刺身を熱した日本酒でしゃぶしゃぶする。酒の味がうつぼの旨味を引き立て、刺身とはまた違った味わいだ。

湯引き

●湯引き

皮付きのまま切ったウツボを湯に入れ、一度沸騰させて冷水に通したものを酢みそでいただく。焼切に使うウツボも皮付きだが、料理法によって変わる皮と身の食感の違いを楽しみたい。湯引きの身はしっとりやわらかい。

焼切

●焼切(やききり)

タタきのような料理法で、皮付きで切られたウツボの身の両面を軽く焼き、酢みそかポン酢でいただく。身はやわらかくほろほろと口の中に広がる。

味噌煮

●味噌煮

へそ(肛門)から下は小骨が多いので料理に使いにくいのだそうだが、ゼラチン質はあたためるとやわらかくなるので、煮込み料理にして骨を外しやすくしたとのこと。口の中に入れても骨は簡単に取り出すことができ食べやすい。

味噌煮はぶつ切りにしてゆでたものを味噌で味付けする

ぶつ切りにしたものをゆでてアクを取り、麦と米の合わせ味噌、ミリンを入れて煮込む。頭の部分も一緒に煮込んでいる。

唐揚げは皮付きのぶつ切りを使う

●唐揚げ

唐揚げはヘソから上のぶつ切りをカラリと揚げた一品。揚げる前にカレー粉をまぶし、カレー風味にしている。

味噌漬け

ベースとなる5つのウツボ料理に加えて最新作という『味噌漬け』もいただいた。切って生の状態のウツボを米味噌に3日ほどつけこんで味をしみこませ、味噌を取り除いてから焼くというもの。身のモチモチ感に味噌の風味がよく合う。添えられている天草産の野菜の色も鮮やかだ。また、内蔵をモツ煮にしたものや、うつぼおこわも美味しいのだそうだ。

独特の味わいとともに、ウツボが持つ“力”にも國武さんたちは注目している。
「身と皮の部分がゼラチン質で、ここにはコラーゲンがたっぷりで美肌作用があります。これは研究機関で調べてもらったので間違いありません。そして、ウツボはとても生命力が強い魚なんです。うちの生け簀で、最高3カ月間エサを何も与えなかったのに生き続けてました。漁師さんは、産後の女性が食べると乳の出がよくなると言っていましたね。皮を焼いてすりつぶして薬にしていたという話もありますよ」。
さすがは、ウツボ料理のパイオニア。國武さんからはウツボについていろいろなお話をうかがえる。
「ウツボは30種類以上の種類があって、食べられるのは2~3種類。日本では、和歌山県から西で食べられているようです。八丈島では腹をさいて干し、一夜干しのようにして食べることもありますね。ウツボは市場にあがらないので手に入りにくいし、生け簀で生かしておかないといけないし、さばくのにも手間がかかります。けれど、天草の味としてもっと広めていきたいですね。食べてくださった方は、帰ってから『ウツボ食べて来たんだよ』と、絶対に土産話にしてくださるはずですから(笑)」。

この料理人こだわりの「味のキーワード」

下ごしらえ

頭に目打ちして切れ目を入れて神経を抜き、表面のヌメリは金タワシで落として3枚におろす。その時、小さな骨も一緒に切る

刺身(薄造り)

ヘソ(肛門)から頭に近い部分の背中のほうで骨がない部分を使う。〆には、熱した日本酒でしゃぶしゃぶにしていただく

自慢料理

味噌煮は、熱が加わりゼラチン質がやわらかくなるので小骨も取りやすく食べやすい。とろとろとした食感は味噌とよく合う

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天草プリンスホテル 落ち着いた部屋で、天草の海の幸を

天草市の海の玄関でもある本渡港に臨む観光にも便利なホテル。天草名物のウツボ料理、伊勢エビ料理、あわび料理など、天草の海の幸をふんだんに使った料理を存分に味わえる。宿泊(1泊2食付き)9450円~、食事のみ(要予約・個室でいただくことができる)3150円~。4階展望大浴場ではラジウム温泉の湯につかりながら、眼前に広がる天草の海を楽しめる。

写真は5種類のウツボ料理が楽しめる『ウツボコース』5人前11500円(消費税別)。
※その他、ウツボ料理は2名以上で要予約。詳しくは問合せを
食事のみも、落ち着いた部屋での部屋食となる

天草プリンスホテル

住所 天草市東町92
電話 0969-22-5136
カード
駐車場 あり
URL http://www.amakusa-princehotel.jp
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